恋人を振り向かせる方法
いいのかと言われれば•••。
「良くはないけど•••」
好きな人が別の女性と結婚すると考えただけで、嫉妬心が湧いてくる。
「だったら、そんな事を言うなよ。俺たちは今、恋人同士なんだ。そんな質問自体、おかしいだろ?」
「だって、単純に疑問だったんだもん」
敦哉さんはどこかムキになっていて、それが怪しい気もするけれど、それ以上は突っ込まなかった。
敦哉さんは、奈子さんと結婚をしたくない。
それが本音なのだから、私にとっては好都合だ。
黙り込んだ私に、敦哉さんの頭を撫でる手が止まった。
「愛来、もしかして寝た?」
「ううん、寝てないよ」
そうか。
胸に顔を埋めたままだったから、分からなかったのか。
「焦った。なあ、この部屋は明日まで使えるんだ。ちゃんと金も払ってるし、明日も休みだし•••」
「だし?」
「今夜はここに泊まろう」
そう言うと、敦哉さんは私を押し倒すようにして、唇を重ねたのだった。
「夜になったら、甲板に出てみよう。船がライトアップされて、なかなかロマンチックだから」
「うん•••。楽しみにしてる」
小さな笑顔を向けると、敦哉さんも返してくれた。
「だから、それまではいいだろ?俺、我慢の限界」
体中を這う様にキスをして、敦哉さんは私の身も心も奪っていった。
溢れ出す声は、私が感じている証拠。
それを伝えたくて、我慢はしない。
体で声で、全部で伝えるから。
敦哉さんへの想いを。
「••••••来!」
遠くから聞こえる敦哉さんの声。
あれ?今まで耳元で囁いてくれていた声が、なぜ遠くから聞こえるのだろう。
「愛来!起きろよ」
「ん•••?」
目を開けると、私を覗き込む敦哉さんが見えた。
「あれ?私、寝てた?」
すっかり外は暗くなり、部屋も電気がついている。
敦哉さんはスーツに着替えていて、私をしかめっ面で見ていた。
「全然起きないんだもんな。ほら、着替えて甲板に出よう。夜景が本当に綺麗なんだよ」
「うん。分かった」
慌てて服に着替えると、急かされる様に部屋を出る。
敦哉さんが、こんなに夜景に拘るとは意外だ。
結構、ロマンチストな人なのかもしれない。
手を引かれながら甲板へ出ると、言葉通りに夜景が一望出来た。
船が、ちょうど街の景色が見える位置に停まっているらしい。
さらに、船の柵にも飾りが施され、雰囲気は抜群だった。
「本当、綺麗。でも、何で人がいないの?」
辺りを見回しても、人一人いない。
すると、敦哉さんが呆れた様に答えたのだった。
「だって、もう夜中だから。愛来、全然起きないんだもんなぁ」
「ごめん。寝入っちゃってた」
小さくなった私に、敦哉さんは笑ったのだった。
「謝る事はないよ。今日は疲れたよな?俺が振り回したんだし、謝るのは俺の方だ」
そう言うと、私を優しく抱きしめてくれた。
「本当言うとさ、ここで愛来とこうしたかったんだ」
敦哉さんは、私の頬を包み込む様に触れ、唇にキスをした。
舌を絡ませながら、抱きしめる腕に力を込めている。
「愛来といると楽しい。それは本当だよ。こうやってキスをしたいのも、愛来を可愛いと思うから」
「敦哉さん•••。私、敦哉さんを振り向かせてみせる。絶対に」
利用されていると分かって、それでもこんな事を言うのはおかしいだろうか。
好きだという気持ちに変わりはなく、むしろ、あんなお家事情を知ったからには、敦哉さんの力になりたいと思ってしまったのだ。
「愛来、お前って最高」
敦哉さんはそう言うと、再び唇を塞いだのだった。