恋人を振り向かせる方法
思わぬ同棲生活
「ちょっと、愛来!何で教えてくれなかったの?敦哉さんと付き合ってるんだって!?」
出勤をしたと同時に亜由美が飛んで来だかと思うと、腕を引っ張られ部屋を出されたのだった。
まるで引きずられる様に廊下の奥まで行くと、左手を持ち上げられた。
「素敵じゃない。これ、敦哉さんからのプレゼント?」
指輪を見ながら、亜由美の目は輝いている。
「うん。まあね」
敦哉さんにつけて欲しいと言われ、仕事にも指輪をはめて来たのだ。
それにしても、一体いつの間に話したのだろう。
今朝は、敦哉さんは取引先に直行のはずだ。
人と話をするチャンスはないはずなのに、亜由美が知っているという事は、他の人も間違いなく知っている。
「何よ、愛来。素っ気ないわね。女子社員の憧れの人をゲット出来たのよ?もう少し喜んでもいいのに」
「喜んでるわよ。もちろん」
実はパーティーの夜、甲板でキスをした後、敦哉さんから言われたのだった。
社内で私との付き合いを話しておきたいと。
てっきり秘密にしたいのだろうと思っていただけに、それが嬉しくて二つ返事をした時、女性に声をかけられたのだった。
その人は、20代後半から30代前半くらいの派手な美人で、敦哉さんを睨みつけていた。
状況が飲み込めない私は呆然とするだけだったけれど、敦哉さんの方は罰が悪そうに目が泳いでいる。
すると、その人はヒール音を響かせ歩み寄ると、敦哉さんの頬に力一杯の平手打ちをお見舞いしたのだった。
まさに、開いた口が塞がらないとはこの事で、隣で一部始終を見ていた私はドン引きだ。
「敦哉、サイテー。私を抱いたのは遊びだったのね。すっかり噂になってるわよ。本命の恋人を連れて歩いてるって」
震える手を上げたまま、その人は目を赤くして言った。
肝心の敦哉さんは何と言うのだろうと思っていると、頬を叩かれた事など気にする様子もなく冷たく言い放ったのだった。
「一回抱いただけだろ?勘違いしたのは、お前の方だ」
すると、その人は涙を流しながら走って船内へと消えたのだった。
ーーというやり取りがあったのだから、呆れて物も言えない。
敦哉さんは、どうやら女遊びをそれなりに楽しんでいたらしい。
まあ、あれだけのルックスと御曹司という称号があるのだ。
女性をその気にさせるのは、お得意なのだろう。
それにしても、結局は私も遊びではないのかと疑い始めると、恋人関係も興ざめだ。
今となっては、社内では秘密にしてもらうべきだったと、後悔しているくらいなのだから。
「喜んでるって顔には見えないけどねぇ」
疑いの眼差しで亜由美が私を見た時、
「おはよう、亜由美に愛来」
ご機嫌の良い敦哉さんの声が聞こえてきたのだった。