恋人を振り向かせる方法
「あっ、おはようございます!敦哉さん、早かったんですね?」
何で、亜由美が喜んでいるのだろう。
顔を明るくして、わざとらしいくらいの高い声を上げている。
「ああ、先方が午前中、他にも予定を入れててさ。だから朝一で顔を出して、さっさと用事を済ませてきたんだ」
「そうなんですか?さすがですね」
そう言った亜由美は、私にチラリと目を向ける。
『愛来も言え!』と、けしかけられている様だ。
でもその姿は逆に、私の気持ちを見事に冷ましてしまったのだった。
しらけてしまい、亜由美のアイコンタクトをこれみよがしに無視した。
すると、敦哉さんはそんな私に視線を向けたのだった。
「愛来、おはよう。返事を返してくれてないじゃないか。それに、何だかご機嫌斜めだな?」
すると、亜由美が突然手を叩いたのだった。
「あっ、そうだ!私、仕事の途中だったんだわ。戻らなくちゃ」
棒読みでわざとらしく言った亜由美は、小走りでオフィスへと戻ったのだった。
その姿を見ながら、敦哉さんはご機嫌の良い笑みを浮かべている。
「さすが亜由美。気が利くな」
私としては、そんな気を利かせてくれなくても良かったのだけれど•••。
その気持ちが顔に出ていたのか、敦哉さんは眉を下げて困った様な笑顔を浮かべた。
「まだ怒ってるのか?パーティーの夜の事」
「別に。それに、私が怒る事じゃないものね。半分、偽物の恋人同士なんだから」
そうだ。
普通の恋人同士なら、ケンカになってもいいくらいだけれど、そこまて強く言えないのは、自分が愛されているわけではないから。
「身も蓋もない言い方をするんだな。だけど、そんな冷たい言い方をされると、逆にヤキモチを妬いてくれてるのかなって思っちゃうよ」
意地悪く微笑みながら、敦哉さんは顔を近付けた。
「ヤキモチなんて妬かないよ。それより、顔が近いってば。ここ、会社なんだからね?」
両手を顔の前まで上げて、それ以上は敦哉さんを拒む姿勢を見せる。
すると、小さく吹き出されてしまった。
「会社では何もしないよ。それとも、して欲しかった?愛来は、意外とエッチなんだな」
「エッチ!?それは敦哉さんの方でしょ?それに、何もして欲しくない」
心外な言葉に、思わず握り拳を作って振り上げる。
もちろん、本気で殴るつもりもなく、『振り』でだ。
だけどその手は、あっけなく敦哉さんに取られてしまったのだった。
「そうムキになるなって。今夜、またゆっくりしような?帰りは一緒に帰ろう」
「え?」
そう言った敦哉さんは、私の手の甲にそっとキスをした。
「正直さ、仕事が今までよりずっと楽しく感じるよ。それは、愛来がいてくれるから。その気持ちに嘘はない。じゃあ、先に戻ってるな」
敦哉さんは最後に、私の頭を軽く叩いてオフィスへ戻ったのだった。
キスをされた手も、触れらた頭も、敦哉さんの感触が残って胸が高鳴る。
言われた通り、私はエッチなのかもしれない。
だって、もう敦哉さんが恋しいから。
本当は、一日中だって二人きりでいたい•••。
ヤキモチだって、本当は妬いてる。