恋人を振り向かせる方法


甘えて欲しい、その言葉は私の胸いっぱいに広がる。
今まで、こんなに真っ直ぐに気持ちを伝えてくれた人には出会った事がない。
敦哉さんの言葉を疑いたくはなくて、そっと胸に顔を埋めた。

「私は、敦哉さんが好きだから。だから、少しくらいは我慢出来るよ。みんなの憧れの人と付き合ってるんだから、妬まれるのも想定内」

「やっぱり、嫌がらせされたんだな」

そう言って敦哉さんは、私を強く抱きしめた。
でも、お互い勤務中。
特に私は席空きの時間を長くしているから、急いで戻らないといけない。
名残り惜しくあるけれど、そっと敦哉さんの体から離れたのだった。

「敦哉さん、本当にありがとう。気付いてくれて嬉しかった。そろそろ、戻らないと。足止めしちゃって、ごめんね」

好きな人から、好きだと言われなくても心は満たされるのだと分かる。
敦哉さんと一緒にいると、そんな新しい発見があるのだ。

「愛来、帰りは一緒に帰ろう。な?」

「うん」

笑顔を向けると、敦哉さんは唇を重ねた。
こんな時間を敦哉さんと過ごせるのだから、妬まれたって仕方ない。
小さな嫌がらせは、今の私には何でもない事なのだった。
そして、ようやくオフィスに戻ったけれど、元々が自由な社風の会社。
席空きの時間を問われる事はなかった。
オンラインで確認した敦哉さんのスケジュールは、18時に帰社予定になっている。
それまでオフィスに戻ってきてくれないのかと思うと、さっき別れたばかりなのに、もう敦哉さんを恋しく感じる自分がいた。
会えば会うほど、話をすればするほど、どんどん恋心は加速する。
そして、ようやく18時を迎えた。
スケジュール通りに敦哉さんは戻ってきて、手際良く帰り支度を整えると、私に目配せをしたのだった。
それを確認し、一足遅れてオフィスを出る。
いくら、社内恋愛を公表したからといっても、堂々とし過ぎるわけにはいかない。
まるで、秘密の恋愛をしているかの様に、胸を踊らせながら玄関まで急いだのだった。

「敦哉さん!」

正面玄関を出たところで、敦哉さんは待ってくれている。
夜のオフィス街で、一際目立つスーツ姿。
華があり、堂々とした立ち姿に、甘く優しい笑顔。
すれ違う人が振り向くほどのその笑顔は、私に向けられた。

「愛来、お疲れ様。すっかり、機嫌を直してくれたみたいだな」

飛びつく様に腕を絡ませた私に、敦哉さんはそう言う。
だけど、何の話をしているのか分からない私は、首を傾げた。

「機嫌?」

「そうだよ。今朝、ご機嫌斜めだったろ?」

「あっ•••」

そうだった。
あの船上パーティーでの平手打ち事件が忘れられなくて、ヘソを曲げていたのだった。
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