恋人を振り向かせる方法
「従兄弟?」
「ああ。オヤジの妹の子供で、俺より2歳年下なんだけど、そいつがいるよ」
なるほど。
血縁者には間違いない。
だけど、跡を継ぐとはそんな簡単なものではないのだろうと、素人でも何となく分かる。
「それで、すんなり解決しそうなの?」
すると、敦哉さんは目を閉じ小さくため息をついた。
「まさか。母さんが大反対だし、オヤジもまだ俺を諦めてないよ。だから、奈子との結婚も強要してきたんだからさ」
「やっぱり、そうよね」
何しろ、あんな大企業グループを息子以外に継がせる事に、母親がいい顔をするわけがない。
それにしても、こんな身近な場所で跡目争いがあるなんて、本当に驚きだ。
「ただ、高弘(たかひろ)•••、っていうのが名前なんだけど、あいつは小さい頃から頻繁に家を出入りしてたからな。多分、叔母さんは跡継ぎ争いに、最初から参戦するつもりだったんだよ」
「家って、敦哉さんの実家の事?そんなに出入りしてたんなら、仲は良かったんだ?」
「その反対。俺たちは、超がつくほど仲が悪かったよ」
「そうなの?何で?」
そう聞くと、敦哉さんは目を閉じたまま黙り込んだ。
寝ているわけではなく、答えたくないらしい。
それほど、従兄弟とも溝が深いのか。
お父さんには愛人がいて、従兄弟とも仲が悪くて。
その上、大企業グループの御曹司である敦哉さんは、はためから見れば恵まれた環境に生まれているのに、跡目争いで家族と確執している。
それはどれだけ、神経のすり減ることだろう。
「敦哉さんにとって、安らぐ場所はどこ?」
それならばせめて、私は敦哉さんの癒しになれる存在でいたい。
敦哉さんが安らげる場所があるなら、それを知っておきたかった。
すると、敦哉さんはそれまで閉じていた目を開け、私を優しく見つめた。
「愛来の側。愛来といると、今までの自分を忘れていられる。求めていた夢の世界に居られるんだ」
「私の側?それが安らぎの場所?」
敦哉さんは頷くと、私を強く抱きしめた。
「前に、愛来にはオートロックの番号も教えたし、鍵も渡したろ?」
「うん。ちゃんと覚えてるし、鍵も持ってるよ」
好きな時に来てもいいと言われたものの、一度もそうした事はない。
やっぱり、敦哉さんの留守中に部屋へ入る事に抵抗感があるからだ。
「だからさ、いっそのこと同棲しないか?この部屋で」
「え?同棲!?」
ボーッとしていると、聞き流しそうになるくらい自然に、敦哉さんはとんでもない事を口にしたのだった。
「私と敦哉さんが同棲•••?」
ここで、一緒に暮らすということ?
会社でも家でも一緒にいられるって、そういうこと•••?