恋人を振り向かせる方法


その姿に息を飲む。
とても私が口を挟める状況ではなかった。
胸倉を掴んだままの敦哉さんは肩で息をしているけれど、高弘さんはまるで動じていない。
それどころか、思い切り手を払いのけたのだった。

「人聞きの悪い事を言うなよ。望んできてるのは、奈子のオヤジさんたちだ。それに、奈子も了承してるんだよ」

「奈子が?そんな訳ないだろ?」

愕然とする敦哉さんに、ただならぬ雰囲気を感じる。
きっと今、私が隣にいる事を忘れているはずだ。

「本当だよ。奈子に直接聞いてみろよ。
お前と結婚出来ないなら、誰と結婚しても同じなんだってさ」

言葉を失う敦哉さんは歯を食いしばり、握り拳を震えさせている。
怒りを感じているのか、それとも何かを我慢しているのかは分からない。
少し沈黙の間も、高弘さんの不敵な笑みは消えなかった。
そして、その沈黙を破ったのは、敦哉さんのお父さんだった。

「どうするんだ敦哉。いい機会だから、そちらのお嬢さんにも分かって貰った方がいいんじゃないか?」

すると、敦哉さんが険しい顔でお父さんを見たのだった。

「どういう意味だよ、オヤジ」

「別れて貰えという意味だ。事情はよく分かったんじゃないか?お前が跡を継いで奈子さんと結婚をすれば、全てが解決する。みんなが幸せになるんだ」

お父さんの言葉を、敦哉さんは何一つ言い返さない。
高弘さんの言うとおり、迷っているのだろうか。
と、その時、敦哉さんの携帯が鳴ったのだった。
そのお陰で、それまでの張り詰めていた糸が切れた様に、みんな一息ついて力を抜いている。

「会社からだ」

ようやく敦哉さんは、険しい表情を緩め私に目を向けた。

「何かあったのかもしれない。ちょっと出てくるよ」

頷く私に小さな笑みを向けて、敦哉さんは急いで部屋を出て行った。
それにしても、完全アウェーのこの場所で、敦哉さんが戻ってくるまでどうしようか。
誰とも目を合わさず、口も聞かず•••。
そんな事を考えていたら、高弘さんに声をかけられた。

「ちょっと抜けない?敦哉と奈子の事を聞きたいだろ?教えてあげるよ」

「えっ!?でも•••」

高弘さんと二人きりで話をするというのか。
確かに奈子さんとの関係は気になるし、知りたい。
だけど、いくら何でも初対面の、それも敦哉さんと仲の悪い従兄弟と二人きりというのはマズ過ぎる。
だから、断る気満々だったというのに、高弘さんは強引に私の手を引っ張ると、部屋を出たのだった。

「重苦しい空気だったろ?俺もウンザリ。このフロアから外に出られるんだ。こっちだよ」

高弘さんは足早に、私をホテルから連れ出したのだった。
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