恋人を振り向かせる方法
奈子さんを意識し始めた?
「まさか、高弘さんも奈子さんを子供の頃から知っていたの?」
「そうだよ。俺たちは三人、幼なじみなんだ。奈子は、子供の頃から敦哉が好きだった。敦哉は、それを知っていたはずなのに、なぜか奈子を本当の妹の様にしか扱わなかったんだ」
そうだったのか。
高弘さんも、奈子さんの幼なじみだったとは驚きだ。
「もちろん、本当の妹なんかじゃない。それなのにあいつは、そこに壁を作って、とことん奈子を拒んだ」
「確か、奈子さんのお母さんて、早くに亡くなられたんだよね?だから、余計に兄代わりになりたかったんじゃないかな?」
すると、高弘さんの顔が途端に険しくなった。
まるで、私を責める表情に思わず体を反らす。
「じゃあ、それをずっと貫けばいいんだよ。敦哉はな、たった一回、情に流されて奈子を抱いた事があるんだ」
「え?抱いた?」
それは、あまりにショックな言葉で、その前に出てきた、敦哉さんが奈子さんを好きだろうという言葉と重なった。
これほどに動揺するのかと思うくらい、胸が苦しい。
「愛来に言う事ではないけど、俺は中途半端なあいつの態度が気に入らない。本当は好きなくせに、拒んでそのクセ奈子を抱いたんだ」
「高弘さんは、どうしてそこまで敦哉さんが奈子さんを好きだと確信するの?」
一体、二人の間に何があるのか。
それを考えれば考えるほど、胸がどんどん苦しくなる。
ただの幼なじみではなかったのか。
まさか、奈子さんがここまで敦哉さんにとって大事な人だとは思わなかった。
「その理由は簡単。あいつは、どんな時でも奈子だけを見てる。奈子の為なら優しくも冷たくもなれるんだよ。いつだって全力だ」
それには心当たりがある。
船上パーティーの日、奈子さんが部屋を訪ねてきた時があった。
あの時、敦哉さんはわざと上半身裸で対応したのだった。
今から私と何をするのかを、奈子さんに分からせる様に。
あれは、ただの挑発でも冷たさでもなく、愛情だったのだ。
奈子さんに、自分を諦めさる為に取った行動なのだ。
「だとしても、敦哉さんは奈子さんとは結婚しないと言ってるんだし、問題をややこしくする必要はないじゃない。どうして、問題を掘り返すの?」
それは、私の身勝手な本音だ。
今は奈子さんに未練がある敦哉さんも、その内には思い出に出来るかもしれないではないか。
それなのに、高弘さんが騒ぎたてれば、嫌でも思い出してしまうだろう。
そっとしておいて欲しい。
それが、私の本音だった。