恋人を振り向かせる方法
すると、高弘さんは小さくため息をついた。
「愛来がそう思いたい気持ちはよく分かる。だけど、奈子の気持ちはどうなるんだ?ほとんどヤケで俺との結婚に同意したんだ。そして、それを知った敦哉は動揺してる。そんな状況で、誰が救われるんだよ。愛来だって、他の女を想い続ける男と、一緒にいでも辛いだけだろ?」
「それは、そうだけど•••。それにしても、高弘さんも奈子さんと何かあったの?敦哉さん、相手が高弘さんだから嫌そうな感じだったけど」
「えっ!?」
すると、みるみる高弘さんの表情が罰悪そうになった。
そして、口調にも覇気がなくなっていったのだった。
「実は学生の頃、どうしても耐えられなくて、奈子を無理矢理•••」
「む、無理矢理?何かした?」
まさかのカミングアウトに、またも動揺する。
高弘さんは小さく頷くと、叱られた子供の様に消え入るような声で答えたのだった。
「抱いたんだ•••」
「サイテー!そういうのは、抱いたんじゃなくて、犯したって言うのよ!」
思わず声を荒げると、高弘さんは顔を赤らめた。
「仕方ないだろ!それだけ好きなんだよ。だいたい、敦哉が抱いたのはその後なんだ。どうせ、俺が抱いた事を忘れさせるとか、都合のいい事を言ったんだよ。ますます奈子が、敦哉にのめり込むのが目に見えてるじゃないか。どっちが残酷だよ」
ほとんど逆ギレ状態の高弘さんは、私に捨てゼリフを吐いたのだった。
「愛来はいいじゃないか。敦哉に愛されてるんだから。あんたが一番美味しいよ」
一番美味しい?
何も知らないくせに、簡単に言ってくれるではないか。
「何が一番美味しいよ!私はそもそも、奈子さんとの結婚を断る為に、敦哉さんに利用されてるところから始まってるんだからね。全然美味しい立場じゃないわよ」
売り言葉に買い言葉。
人の苦悩も知らないで、勝手な事ばかり言うのだから腹が立つ。
すると、それを聞いた高弘さんの顔が一瞬で真顔になった。
「何だ、それ。利用されてるって何だよ。あいつ、そうまでして奈子を拒もうとしてるのか?」
「あっ、いや、その•••」
我に返り、自分の言った事の重大さに気付く。
いくら腹が立ったとはいえ、言ってはいけない事を言ってしまった。
これ以上、高弘さんと話していては、ボロが出過ぎる。
そう思い、苦し紛れに立ち上がった。
「私、もう戻る。敦哉さんが探してちゃいけないから」
すると、高弘さんが私の腕を掴んだのだった。
「もうちょっと話そうぜ。愛来、けっこうペラペラ喋ってくれるもんな?」
その目には、不敵な感じさえする。
やっぱり、このままここにいてはマズイ。
早く戻らなければ。
「高弘さんてね、私の元カレに似てるの。名字も一緒だし。だから、つい話し過ぎただけ。じゃあね」
そう言って逃げようとしたけれど、高弘さんは腕を離してくれない。
「元カレと?だから、ずっとタメ口だったわけか。彼氏って何歳?同じ歳?」
「•••同じ歳。だから、25歳よ」
警戒心はあるものの、海流の話くらいならと答えてみた。
すると、高弘さんはさらに食いついてきたのだった。
「へえ。名前は?」
「名前?海流だけど。海が流れるって書いてカイリよ」
そこまで答えなければいけないのかと思いつつ、答えてみると高弘さんが目を丸くした。
「俺の従兄弟にいるよ、25歳の海流って奴が」
「ええっ!?」
私の叫び声が、店中に響き渡ったのは言うまでもない。