恋人を振り向かせる方法


こんな偶然があるのだろうか。
まさか、海流が高弘さんと従兄弟かもしれないだなんて。

「まさか•••。それに、海流からはお金持ちの従兄弟がいるなんて聞いてない」

信じがたい偶然に、否定したい自分がいる。
すると、高弘さんはニヤリと笑みを浮かべたのだった。

「俺たち仲が悪いから。だから、聞いてなかったんじゃね?」

「また!?」

従兄弟同士とは、そんなに仲が悪いものなのか。
思わず出た本音に、高弘さんは眉間にシワを寄せた。

「またって何だよ。海流とは、母親同士の仲が悪いんだ。だから、交流が少ないんだよ。特に海流の母親が、俺の母親を毛嫌いしててさ」

そうか。
名字が同じという事は、お父さん同士が兄弟という事だ。
お母さん同士は他人な上、一方は新島グループ総帥の妹。
何かと摩擦が起きるに違いない。

「今夜、海流に聞いてみるよ。愛来を知ってるかって」

「やめてよ!余計な事をしないで」

本当に海流だとしても、今さら会えるわけがない。
そもそも、会ってはいけないのだから。
だけど、人の気も知らない高弘さんは、面白そうに見ている。
念押しでもう一度同じ事を言おうとした時、

「手を離せよ、高弘」

敦哉さんの声がしたのだった。
驚いて振り向くと、息を切らせて立っている。

「おー、さすが敦哉。よく探し当てたな」

茶化す様な高弘さんに、敦哉さんは怖い顔を向けた。

「聞こえなかったか?愛来から手を離せって言ってるんだよ」

すると、高弘さんは少しふて腐れ気味に手を離し、立ち上がったのだった。

「そんな怖い顔しなくても、別に何もしねえよ。それより敦哉、あんまりあぐらかいてると、彼女に逃げられるぞ?知らないからな。他の男が奪いに来ても」

「何だよ、それ」

店を出て行く高弘さんの後ろ姿を、敦哉さんは呆然と見ている。
まったく、高弘さんは最後に余計な事を言ってくれたものだ。
これでは、私にやましい部分があるみたいではないか。
ようやく振り向いた敦哉さんは、怖い顔のまま私を見た。

「愛来、何で勝手に出て行ったんだ?」

「ご、ごめんなさい。高弘さんに誘われてしまって」

どうやら本気で怒っているらしく、小さくなるしかない。

「誘われたからって、勝手に出て行っていいわけないだろ?お陰でみんな帰ったし、話が進まなかったんだ」

それは申し訳なかったと思う。
だけど、口から突いて出た言葉は、『ごめんなさい』ではなかったのだった。

「じゃあ、話を進めてればどんな結論になったの?奈子さんと結婚するっていう?そうしたかったって事?」
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