恋人を振り向かせる方法
『今夜も会いに行く』
朝っぱらから入っていた海流からのメールに、眠気が一気に吹っ飛んだ。
ゆうべ、車で近くまで送ってもらったはいいけれど、半ば無理矢理メアドと番号を聞かれたのだった。
そしたら案の定、朝からこんなメールを送ってくるのだから、ガツンと言わなければいけない。
迷惑だと。
「今夜って言われてもなぁ」
隣で眠る敦哉さんを確認すると、メールの返事を打つ。
一応会おうか。
今夜拒んだところで、海流はきっとまた誘ってくるはずだから。
その代わり、人目のつく場所で会う事が条件だ。
その内容でメールを打っていると、
「朝から誰にメールしてんの?」
敦哉さんの声に、思わずメールを消してしまった。
「敦哉さん、起きてたの!?」
「今起きたの」
目を細めた敦哉さんが、気だるそうに答える。
ベッドの中で軽く伸びをして、私に不機嫌そうな顔を向けた。
「続きしないのか?」
「えっ!?何の事?」
「メールだよ。今、慌てて消したじゃん」
分かっていたのか。
それにしても、何と鋭いのだろう。
もしかして、内容も見られていたのだろうか。
心の中では焦りでいっぱいだけれど、努めて笑顔を浮かべると、服を羽織りベッドを降りた。
「別に急ぎじゃないから、また後にするわ」
逃げる様に台所へ向かい、簡単な朝食を作る。
敦哉さんに不審に思われただろうか。
チラリと振り向くと、納得していない顔でスーツに着替えた後、ゴミ出しの準備をしていた。
その姿を見ていると、海流と連絡を取り合っていることに罪悪感を感じる。
もし敦哉さんが生まれた通りの道を歩いていれば、こんな狭いアパートに住む事も、自分でゴミ出しをする事もなかったはずだ。
御曹司という立場と引き換えにしてでも、今の生活を取った敦哉さんの決意は、きっと想像以上の覚悟があったに違いない。
その中で、例え打算があったとしても、私を側にいる女性に選んでくれた。
それを思うと、やっぱり敦哉さんを裏切れない。
「愛来、悪いけど朝メシはいらない。急ぎのアポがあるから、外で済ます」
敦哉さんはゴミ袋を片手に、既に玄関で靴を履いている。
「えっ!?あ、ちょっと待って」
慌てて玄関へ向かうと、敦哉さんの肩に手を掛けた。
「愛来?」
突然呼び止められ、呆然とする敦哉さんの唇に自分の唇を重ねる。
無性にキスをしたくて、ほとんど衝動的にしていたのだった。
すると、そんな私に答える様に敦哉さんもキスを返してくれる。
出勤前のほんのひと時、私たちはお互いを抱き締め合って唇を重ねたのだった。