恋人を振り向かせる方法


パーティーの開催は、その週末だった。
あまりに急だったので、衣装の用意が間に合わず、前回の船上パーティーと同じ服に決めたのだった。
それでも敦哉さんは、私の服装を褒めてくれる。

「愛来は、変に背伸びをしないところがいいんだよ」

そう言ってくれたのだ。
その言葉は素直に受け取ろう。
表面上は、今までと変わらなく見える私たちの関係も、海流との噂の後から薄い壁が出来ている気がしていた。
会社でも、私はすっかり嫌われ者で、仕事を依頼する営業さんたちは、それまでの様な愛想はない。
誰一人として、業務以外の声はかけてこないのだ。
もちろん、亜由美もその一人で、挨拶さえも無視される始末だった。
完全に孤立をしてしまい、休日はそれから解放されるだけでもマシに思えた。

「VIPフロア?」

夕方近くになって船に着いた私たち。
案内された場所の入口を見て絶句した。
VIPフロアとは、一般とは違うという意味のはず。
まさか、タレントさんたちが居るフロアではないのか。
入口で立ち止まった私に、敦哉さんは申し訳なさそうに言った。

「ごめん。高弘がくれたチケットが、このフロアのだったから。だけど、心配するな。タレントの人たちは、違うフロアにいるんだよ」

「本当?」

不安を隠せず見上げると、敦哉さんは少し笑顔を浮かべた。

「本当だよ。彼らは特にプライバシーを守られるべき人たちだから、部屋は別なんだ」

「それなら良かった。安心したわ」

金色が基調の船は、派手さがたっぷりで、華々しい著名人が集まるにはピッタリに見える。
それにしても、こんなパーティーが開かれているなんて全然知らなかった。
きっと私の様な一般人には、よほど縁遠いものなのだろう。
敦哉さんがいなければ、来る事のなかった場所だ。

「まさかとは思うけど、このパーティーの主催も新島グループ?」

おずおずと聞くと、敦哉さんは苦笑いをしながら頷いた。

「やっぱり。さすがだね」

だからこそ、ここへ来なければいけなかったわけで、やっぱりお父さんたちに会う覚悟をしておかないといけない。
緊張しながらも船内に入ると、海を見渡せる甲板に辿り着き、オーケストラの生演奏や、テーブルで談笑する人たちが見えた。

「お酒も貰えるけど、どうする愛来?」

「お酒?そんなに、のんびりしていていいの?」

そう聞くと、敦哉さんは笑顔を浮かべながらため息をついたのだった。

「さすがだな。愛来は、ちゃんと分かってくれてるんだ。俺の立場ってやつを」

「そんな•••。そんな立派なものじゃないよ」

敦哉さんの言葉が、嫌みでも何でもなく、心の底から言ってくれているのは分かる。
だけど、裏切った私には素直に聞ける言葉ではなかった。
< 68 / 93 >

この作品をシェア

pagetop