恋人を振り向かせる方法


「海流に、何が分かるっていうのよ•••」

海流に感情をぶつけるのは見当違いだと分かっているけれど、言わずにはいられなかった。
結局私は、海流との再会にときめきながらも、敦哉さんを失いたくないのだ。
だから、気付かせて欲しくない。
誤魔化したままでも、今まで通り敦哉さんの側にいられるなら、そうしたいのだ。
だけど、海流はやめる事をしなかった。

「いい加減、冷静に考えろよ。敦哉さんの一番ベースは、さっきの幼なじみの彼女を諦める事なんだよ。全ては、それを中心に回ってる。愛来を許したフリをしたのだって、愛来と別れてしまったら、また振り出しに戻るからだろ?政略結婚の話が」

それは、私がずっと考えない様にしていた事だ。
できればずっと•••。

「海流は、本当に何でも良く知っているのね。だけど、それは高弘さんから聞いたもの。敦哉さんからじゃない。それなのに、何で敦哉さんの気持ちが分かるのよ」

もうこれ以上、気付かせないで欲しい。
私と敦哉さんが、薄っぺらい関係でしかない事実に。
知らなければ、敦哉さんの気持ちを都合良く解釈出来るのだから。

「分かるよ。俺なら、彼女が浮気した時点で責め立てる。そして、相手の男を殴りに行くな。それをしなかった敦哉さんは、愛来に愛情があるとは思えない」

「それは、海流だからよ。敦哉さんは、私たちより10歳も年上なのよ?もっと理性的に考えられるんだわ」

意地でも認めない私に、海流は静かに言ったのだった。

「男ってのは、自分の女を独占欲いっぱいの目で見てるんだよ。敦哉さんが、未だに跡継ぎ問題に答えを出せないのは、奈子さんて人を手離せないからだ。何せ、高弘に取られるかもしれないからな。愛来には残酷かもしれないけど、敦哉さんが独占欲を持って見てるのは、奈子さんの方だ」

その言葉は、私の胸に深く突き刺さった。

「独占欲と愛情は違うじゃない。だから、敦哉さんが奈子さんを好きとは限らない。海流の話がそういう話なら、もう必要ないから」

強引に話を終わらせて立ち上がる。
これ以上、とにかく聞きたくなかった。
そして部屋を出ようとする私を、海流は慌てて引き止める。

「愛来も、現実から逃げるなよ。ちゃんと向き合わなきゃダメだ」

向き合って、敦哉さんと別れろと言いたいのか。
それが解決方法なら、とっくにしている

というより、むしろ最初から付き合っていない。
今回の事があって、海流の存在もひっくるめても、やっぱり私は敦哉さんが好きなのだと分かったのだった。
海流の引き止めも無視して、強引にドアを開けた時、

「敦哉くん!いい加減目を覚ましてよ」

奈子さんの声がして、思わず海流と顔を見合わせる。
どうやら、話し合いは終わっていたらしい。
奈子さんの声は、ちょうど部屋と部屋の間の通路から聞こえてきた。
海流と二人、気付かれない様に体を滑らせながら、そっと覗き込む。
通路側も部屋があり、そのドアの前で敦哉さんと二人で立っていた。
敦哉さんの方が背中を向けていて表情は伺い知れないけれど、奈子さんの方は相当切羽詰まった表情をしている。

「高弘くんも言ってたでしょ?あの従兄弟の海流って人、愛来さんの元カレだったんだよ?それに、二人はコソコソ会ってキスしてた。そんな人と、いつまでも付き合う意味あるの?」
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