恋人を振り向かせる方法
こんな幸せが訪れるなんて、まるで想像もしていなかった。
敦哉さんと二人で並んだ座る、ただそれだけでこんなにも心が満たされる。
「敦哉さん、奈子さんは本当に大丈夫かな?私、恋のライバルとして見れば奈子さんは嫌いだけど、一人の人間として見れば、やっぱり気になる。大丈夫かなって」
寂しさを抱えた奈子さんと、もっと違う形で出会えていれば、友達になりたかったと思うから。
「大丈夫だよ。奈子は、もう俺に未練はない。まあ、あのパーティーの夜に俺が取った行動は、間違ってたけどな。奈子にキスをしたって、もし抱いていたとしても、それで奈子が前へ進めるはずはなかったんだ。ちゃんと分かってもらうべきだった」
「うん。そうだね」
そういえば、奈子さんは言っていた。
敦哉さんが、命懸けで自分を守ってくれただけで十分だと。
そこまでしてくれても、恋愛対象として見れないなら、もう諦めるしかないと言っていた奈子さんの表情は、晴れ晴れとしていたっけ。
敦哉さんの想いは、きっとちゃんと伝わっていると、その時思ったのだった。
「そういえば、高弘さんて跡取り修行を頑張ってるんだって?海流から聞いたよ」
「海流くんから?へえ。ちょくちょく連絡を取ってるんだ?」
「えっ!?そういう訳じゃなくて、この辺でよく会うだけなのよ」
何気なく言ったつもりが、疑われたみたいで動揺する。
すると、敦哉さんが吹き出した。
「ごめん、ごめん。知ってるよ。俺も海流くんに会う事が多くて、愛来には遠慮なく接してくれていいって言ってるから」
「敦哉さん、何だか余裕ね」
安心すると共に、いつの間にそんな話をしていたのかと驚きだ。
「当たり前だよ。俺は愛来を信じてるから」
口角を上げて微笑んだ敦哉さんは、私の頬に優しく触れた。
「俺にとって奈子は、これからもずっと大切な妹の様な存在なんだ。だから、困った事があれば、出来るだけ力になりたいと思ってる。それは、分かっていて欲しいんだ」
「もちろんよ。敦哉さんにとって大事な人は、私にも大事な人だから」
そう言うと、目を細めて笑ってくれた。
「やっぱり、愛来が俺の奥さんで良かった。後もう一つ、忘れて欲しくないのは、俺が愛来を愛してるって事」
「敦哉さん•••」
心臓が飛び跳ねそうなくらいに、鼓動が速くなる。
敦哉さんから言われる『愛してる』という言葉が、何より私を幸せで包み込んだ。
「もう、他の男とキスをしたいなんて思わせないから。それに、俺から離れたいとも思わせない。意地らしいくらいの愛来の心は、俺だけのものだ」
「うん。私も、二度と自分の気持ちを間違えないから。私、いつの間にか敦哉さんを振り向かせられていたんだね?」
嘘から始まった関係でも、結末が幸せならそれでいい。
むしろ、嘘からでも始められたのは幸運だった。
だって、好きな人との幸せを、手に入れる事が出来たのだから。
「そうだな、とっくに振り向かせてたよ。いつだって、俺の事を考えてくれていた愛来に、とっくに惹かれていた。そもそも、俺が跡を継がない決心が出来たのも、愛来がアドバイスしてくれたからだ。言ってくれたろ?オヤジと話し合えって。俺を信じてくれた愛来の気持ちが、後押ししてくれたんだよ」
「敦哉さん、そんな風に思ってくれてありがとう。私、敦哉さんの為なら、これからも何だってするから」
意気込む私に、敦哉さんは苦笑いを浮かべて唇を重ねる。
「でも、無茶はしないでくれよ?俺、けっこう心配性だから」
そう言って、私のお腹にそっと手を置いた。
「これからは、大事な二人を俺が必ず守る。愛来たちさえ居てくれれば、俺には怖いもの無しだ。だから、約束だぞ?ずっと俺の側にいるって」
「もちろん、約束する。愛してるから、敦哉さんを」
そして、再び唇を重ねた。
キスからこぼれるお互いの想い。
溢れるばかりの愛を、敦哉さんへ永遠にあげるから。
だから、ずっと受け止めて。
約束だよ。
愛する敦哉さんへ、私からありったけの愛を•••。