泪
歩き出すと同時に、ぐらりと船体が右に傾いた。
「うわっ」
「きゃっ」
亜紀子は短い悲鳴をあげ思わず昴に寄りかかった。
傾いたのは数秒だけで、すぐに安定した傾きになる。
「す…すごく揺れましたね…」
「ああ…。でもこの雨だし風も吹いて波も荒れるよ。
あと安部さん…ごめん重い」
「え」
ハッと亜紀子は改めて自分の体勢を見直した。
昴に寄りかかり過ぎて、彼を壁に押し付けるような体勢になっている。
「ご、ごごごめんなさいぃぃ!!あの、わざとじゃないんです!ちょっとビックリして…思わずなんです!ごめんなさい!あと重いって言わないでください!!」
「……うん。わかったから退いて」