何かの比喩でもなく、正真正銘、人の腕だった。

二の腕から地面に生えたように佇んでいるそれは、手にひしゃくを持って下を向いていた。

ひしゃくを持った、船幽霊。


「ヒッ!」

亜紀子がひきつった悲鳴をあげ、反射的に彼女をかばうように前に立つ。

亜紀子はそろそろと昴の服の袖をつかんだ。

「……船幽霊」

昴がその名を呼んでも、腕だけの船幽霊は行動を起こさない。

だがひしゃくにはなみなみと水が汲んであった。

 
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