「ごめん恵斗。先に行ってて」

彼女は呼んできた男子生徒の声を断り、オレに笑顔を向けてきた。

「なに?」


端的に問われ、オレは言葉に詰まった。

止めたのはいいが何を言えばいいのだろう。



「――い…行かないで…ほしい」

とっさにオレの口から出た言葉は、ひどく子供じみていた。
神崎さんは目を丸くしている。

オレは焦った。

「…あ、ぇ…と。一緒に……いた……いてみたい」


思いを言葉にしてから、オレは後悔した。

頬に熱が集まるのを感じる。

相手に言葉を伝えることが、こんなに困難で恥ずかしいことなのか。

よくクラスメートがじゃれあいしながら文句やら何やら言ってるのを目にすることがある。
彼らはいつもこんなすごいことをしてるのか。

軽くバカにしてたが見方を変える必要があるかもしれない。


オレは居たたまれなさに神崎さんの腕を放し、後ずさった。

どうすればこの場から逃げられるか必死にそれだけを思考をしてると、前からプッ、と小さな笑い声が聞こえた。

おそるおそる顔をあげると、神崎さんはクスクスと笑い、やがてこらえきれなくなったように吹き出す。

 
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