泪
呆然と眺めてると、ふいに視界のすみに目慣れた青が通りすぎようとしていた。
「………結海?」
彼女は応えない。
けれど確信した。
確信すると同時に彼は走り出した。
バシャバシャと異様に重い水を掻き分け、彼女の元へ。
「結海!」
彼は走って、彼女は歩いてるのに、距離は全く縮まらない。
むしろ、どんどん遠退いていく。
「結海!待って!」
水をふんだんに含んで重くなった服に足をとられ、彼は水の中に膝をついた。
水が重い。
波は穏やかなのに、まるで濁流に足を引き込まれたようだ。
「いかないで…」
ふと、すぐ近くに懐かしい気配を感じた。
顔をあげると、眼前にひどく悲しそうな顔をした彼女がいる。
やっと自分の声が届いたのかと彼は嬉しくなった。
冷たくなった手を彼女に向かって伸ばす。
「ゆ…」