Doll


『母さんよ、ねぇあんた、お願いすぐ帰って来てちょうだい。父さんが大変なのよっ、今、山本病院にいるわ』



――――…病、院?
父さんに、何かあったのだろうか…?



「あのさ母さん、ごめんすぐには帰れないよ。バイトもあるから。ほんとごめん。」

『ちょ…ッ』

―――ブツッ



ぼくは携帯の電源を切った。

もうあそこへは帰りたくない。ぼくは 地元が大嫌いだった。

見渡す限り
綺麗な空と緑色の田んぼ、
警戒心なく道中を散歩する鶉
すべてが綺麗すぎて、
ぼくのしゃくに触ったのだ。



そう…今更、ぼくにあの町に帰る資格は、ない。



ぼくはその日、工場で3回くらいミスをして、偉いおばちゃんからお叱りを受けた。
頭が ぼーっとしていたせいだろうか。

だがそんなこと どうでもよかった。


それよりもその夜、
もっとぼくにとって重大なことが起こった。



「・・・・・ハニーが、いない」



午前2時30分
服屋の前
ぼくは手に持ったクレープを自分の口に頬張った。



やっぱり…女のほうが身勝手だよ。知ってたさ。いつかこんな日が来ることくらい。
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