Doll
3
電車に揺られながらぼくは 家族のことを思い返していた。
家事は苦手で大雑把だったが、料理の味だけはだれにも負けなかった母親
昔かたぎの頑固な性格でぼくが弱音を吐くとすぐに頭にげんこつを食らわせてきた父親
お世辞にも可愛いとは言えない顔立ちと引っ込み思案な性格で、ぼくの後ろを鶉の親子みたいに着いてきた妹のまな
よく夜になるとふらふらと勝手にどこかにいなくなっては朝になるといつも通りうちにいる猫のレオン
ぼくはみんなを捨てて、もう二度と会わないと決めて上京した。だが現状、ぼくは今家に戻っている。
へんな感じだ…。
ぼくは家には立ち寄らず、母親がいる山本病院に直接向かった。
“父さんがへんなのよ…”
母さんの声はあの時、確かに震えていた。もっと早く、帰るべきだっただろうか?
ぼくは一応、最悪の事態も考えながら電車の窓の外を眺めていた。
凄い勢いで過ぎていく景色はたくさんのビルが並ぶ街並みから だんだんと遠ざかっていく...
そういえば 地元の駅前には廃れているがクレープ屋があったはずだ。
また都内へ帰る時にはそのクレープを食べてから帰ろう。
ハニーの大好きな クレープを。