Doll


ぼくは ぼくの目を疑った

何故ならぼくは「父さんが死に、霊安室で眠っている」と思い込んでいたからだ。

だがぼくの目の前の光景が、ぼくの頭の中をめちゃくちゃに破壊された。


白い布を顔に被ったひとを 死んだはずの自分の父親が墜ちた表情で眺めていたのだ。


一瞬 死者が蘇ったのかと、そんな馬鹿馬鹿しいことまで思考をよぎった。


「・・・父、さん」
「・・・久しぶりだな。」


ということは母さんが言った「父さんが大変」の言葉は…また意味を変えるわけだが。

父さんの姿をまじまじ見て、すぐに理解した。

この、ひどくどん底まで墜ちきって痩せ細った顔に細すぎる、腕。

きっと目の前の人物が亡くなってから何も食べてないのだろうと察しがつく。



と、なると…



ぼくの目の前で白い布をかぶってるひとは、一体誰なんだ…?!



なんだかぼくは、胸の辺りがザワザワした。
嫌な予感が、する。



「と、父さん…ぼく、何も知らされずに来たんだ。一体だれなんだ…このひとは。」



「・・・・・・・まなだよ。」



・・・・・・まなだって?!


お世辞にも可愛いとは言えない顔立ちと、引っ込み思案でいつもぼくのうしろにひっついて歩いてた、ぼくの 妹。



「トラックにはねられたらしい。子ども諸とも、即死だったんだと。」


「こ、ども…?」


「いたらしいんだよ、お腹の中に。まだ小さすぎて、本人すらも気づいてなかったらしいが…」





父親が、ゆっくりと顔に掛かった白い布を剥がしていった…―。
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