君の温もりを知る
寒さは冬のせい
店を出て、明日はこちらに
視線を向けはせずに、静かに言った。
「なあ、お前ん家どこ?案内して」
そう言ったっきり、私が道の右左を
案内する声以外の会話は一切なく、
吉原家宅まで到着した。
そこで久しぶりに視線がばっちり
合ったかと思えば、
明日はポケットに手を入れたまま
膝で、私の背中を押した。
「まずは、ほれ、謝ってこい」
「は、え…?」
何を言うかと思えば、私の家の仲を
そこまで心配してくれたんですね。
ありがとうございます。
でも背中を足で押すのはやめてください。
長いからって自慢しないでください。
「…急にそんなの無理だよ」
「長年一緒に暮らしてきた人間に
言うべき言葉ぐらいすぐ考えつけや」
「別に改まって謝る程のことでもないし」
喧嘩って言ったって、私の成績の悪さに
あれこれ言うお母さんに
ちょっと言い返す、ありがちなやつで。
そんなの、成績の良い明日には
わかんないだろうでしょうけど。
なんて思って黙って俯いていれば、
明日は少し屈んで顔を覗き込んできて
珍しく真面目なことを、説いた。
「いいか?もしだ、もし。
喧嘩したまま家を出てお前が
偶然事故にあったりしたらどうすんだ?
最後に掛けた言葉がお前が今朝
言ったような言葉で、本当にいいか?」
「な、なにさ、そんな極論…」
「つべこべ言うんじゃねえ。
俺の質問にだけ答えてろ」
「そ、そんなの…」
「もう一度聞く。それで答えろ。
お前は、それでいいのか?」
「…やだよ。嫌だよ。でもそんなの
誰だってわかってることじゃない!」
「だろ?誰だってそれは理想だ。
でも、俺らは馬鹿で子供だからできねえ。
けど、親にくらい後先後悔しないような
接し方しろや、阿保」
「いつもの横暴は我慢できたけど!
こればっかりは関係ないでしょ!
明日はそんなこと言えるの?ねえ!」
この時私は、言ってはいけないことを
言ってしまったことを、
その時はまだ、気付けずにいた。
「俺は…俺はそれができなかったから。
そんな俺だから、言ってんだよ」
それは、知り合って初めて見る、
泣くのを我慢した子供みたいな顔だった。
「明日、ごめん。お母さんに謝ってくるし
これからも気をつけるから…」
だから、そんな悲しい顔、しないで。
「…ああ、すまねえな。取り乱して。
ここで待ってるから、行って来い」
そう言った明日はほっとした表情は
見せてくれたが、
すぐにもう輝き出した星を見るように
空を見上げてしまった。