君の温もりを知る
玄関の前に立つ。
普段、あれだけ飄々とした明日が
あんな顔をするから、
思わず言ってしまったが
いざ、そうなると言葉が見つからない。
「なんだよ、口だけかよ、貧乳」
なんて言う明日を背中で感じて、
(さっきのは演技だったんじゃ…?)
なんて疑惑も抱えながら
母への謝罪の言葉を探していた、その時。
「真白ー?誰といるのよ」
そんな声がしたかと思えば、
すぐにその目の前の扉は開き、
「そんな騒ぐと近所迷惑でしょう…って」
私の母、吉原早苗が顔を出す。
そしてすぐに、私の少し後ろにいた
明日も視界に入ったらしい。
娘が男を連れてきたからかなんなのか
目を丸くして、ドアを開き掛けのまま
その場で静止してしまった。
面食いのお母さんのことだ。すぐに、
(あら、うちの娘がお世話になってますー)
なんて騒ぎ出すに決まって…
「…あなた、お名前は?」
…予想が外れることだってある。
それが人生ってものだ。
明日もお母さんの反応が予想外だったのか
名前を答えるまでに
頭を整理しているように見えた。
「瀬川、明日です。こんばんは吉原さん」
「こんばんは」
挨拶を返しただけで、何か考え込んだ
お母さんはしばらくして、言った。
「まさか娘が男を連れて来るなんて、
まるで夢のようだわ。そう、あなたが…」
(……あれ?)
お母さんに明日の話、した事あったっけ。
「夕飯食べていく?今夜はカレーなのよ」
「いや、そんなわけには…」
「あら、お家の方に
申し訳なかったかしら。ごめんなさいね」
「違いますよ。
今週は親が仕事でいないので」
「なら、尚更どうぞ?」
「…じゃあ、お言葉に甘えて」
押し付けがましいお母さんにも
驚いたが、明日がここまで人に丁寧に
接するのは初めて見た。
先生方に接する姿も何度か見たものの、
ここまで謙遜はしていたかった気がする。
「そうと決まれば、さあ上がって。
ほら真白、早く準備しなさい」
「うん。……あとお母さん、
今朝はごめんなさい」
「…珍しいわね。謝ってくるなんて」
熱でもあるんじゃないの?
そう言いながらエプロンを着直して
台所へと入って行くお母さん。
明日の荷物を受け取ってから
その後を追った。