君の温もりを知る

錆びた鎖の鳴くような音が、
誰もいない、夜の公園に響く。

一瞬にして、その距離は縮まった。

目の前に迫った明日の綺麗な顔。
唇に優しく触れた、彼の長い人差指。


「…あ、明日……?」

「お前、さあ…」


その強い眼差しは、こちらが目を
そらすことを許さなかった。


「自分が可愛いってこと、
少しくらい自覚しろ」

「は?意味、わかんな…」

「…お前には一生かかっても
わかんねえだろうな」


俺の気持ちなんて。

彼は、怒っていた。普段あれだけ
飄々として、人が一喜一憂するのを
楽しそうに眺めてるような男が、
この日二度目の、これほどまでに
感情を露わにする姿は、
一度目と同じで、いたたまれない。


「今日の明日、変だよ」

「ああ、そうかもな。俺も思うよ」

「…じゃあ、いつもの明日に戻ってよ」

「すまねえ、無理っぽい」

「な、なにさ、明日くん…」


逃げるなら今だぞ。
今日の俺、何するかわかんねえから。

明日が、怖い。怖くて怖くて、
涙がついに滲んできた、その時。


「なーんて」

「…は?」

「ビビったろ?」

「は?なに?」


悪戯が成功した子供より子供らしい顔で
明日は元の場所に戻った。


「それくらい男に危機感持てってこと。
俺以外の男なら食われてたぞ、お前」


それはお前の大好きな先輩でも、だ。

私のおでこを先程の人差し指で
ぴんっとついた明日は嬉々と
ブランコの立ちこぎに勤しんでいた。


「まあ俺は、貧乳になんて
これっぽっちも、興味ねえからなー」

「…ばか、」

「ん?なんか言ったか?」

「馬鹿!本当に怖かったんだから!」


悪い、悪い。そう笑った明日は、
高くこいだブランコからそのまま
ぴょんっと飛んで華麗に着地した。


「さ、誰かさんも元気になったことだし、
そろそろ帰るか。お前もここで帰りだ」

「ちょっと、話は終わってな…」

「ほら、これ以上遅くなると
不審者も増える時間になんぞ。
もともと送ってもらってるの俺だからな」


早くいけ、貧乳。

そう言って背中を押すので、
私は仕方なしに足を進め始めた。


「じゃあね。帰宅途中に
誰も食べちゃだめですよ、明日くん」

「心配ありがとう、真白ちゃん」

「うわ、真白ちゃんとか気持ち悪い」

「うっせーな!お前から振ったんだろ!」



[第二章]

(おはよう、真白)
(あ、おはよー。桃ちゃん)
(…なんか昨日あった?)
(い、いや?何にもないけど?)
(へえ。で、今度の映画のことだけど…)
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