君の温もりを知る

「…で、そんなに元気なわけね」

「はい、そうなんです」

「はあ…私が木管でしごかれてる間に」


先程の先輩との一件を話せば、
楽器を片付けながら、桃ちゃんは
恨めしそうにわたしを見てきた。


「まあ、よかったんじゃない?」

「うん、私もそう思う」

「…ところで、悩める真白さん」

「悩んでなんかいませんよ、桃さん」

「現に二人の男の間で揺れてるじゃん」

「ゆ、揺れてなんかいませんよ」

「前にも言ったけど、結婚してるわけじゃ
ないんだから、自由恋愛よ!自由!」


フリーダム!!!

そう叫ぶ桃ちゃんに周りの視線が集まる。

先輩はもう帰ったからいいものの、
他の人に聞かれたらどうするんだか。


「ところでよ、ところで。
さっき体育館見たら、瀬川部活休み
みたいよ。珍しい!」

「そうかね?」

「そうよ!私の真白と絡み出してから
急に他の女との噂も絶えて、
吹部の練習があるときは必ず練習に
でてた男が!いないのよ!」

「ただの偶然の重なりだよ、それ」

「こんな偶然、あってなるものですか!」


桃ちゃんはこう、私に対して
過保護すぎるところがあるから大変だ。


「百歩譲ってそうだったとして、
別に私は何もできないんですけども」

「ほら、風邪ひいてるのかもしれないし
家に行くとか、ないの?」

「…家、知らないんですけど」


当然のことを答えただけなのに、
桃ちゃんはそこから数秒固まった。


「おーい、桃ちゃーん…」

「な、なにそれ?!真白の家は
あいつ、知ってんのよね?!」

「まあ、知ってるけど…」

「なのにあいつは教えないの?
アンフェアよ!平等じゃない!」

「別に気にしな…」

「気になるわよ!だいたいね、
彼イケメンだからって謎が多すぎるの!
同じ中学校だった人も誰一人いないし
本人は全く周りに深いところは
教えないようだし!なんなの彼!」


イケメンだからってなんでも
許されると思うなよ!

そう叫ぶ桃ちゃんは、イケメンだけは
認めていることに気付いているのか
どうなのか。

兎に角、逆上してしまった桃ちゃんを
止められないのはいつものことで
私の肩をがっちり掴んで
物凄い剣幕で言ってくるのには敵わない。


「いい?なんとしても今日、
瀬川に会いなさい。そして家だの
何だの聞き出しておしまい!」


彼の本性を暴いてやるわ!

不気味な笑みを携えた彼女は、
そのまま私を、音楽室から追い出した。
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