君の温もりを知る

買い物と聞いて、どこに行くかと思えば
明日が欲しい物があるわけでもないらしく
何故か女物の洋服屋さんに、来ていた。


「スタイルはまあまあだけど
こんな貧乳だしな。これはだめか…」


とか


「これに、これあわせるんだったら、
絶対髪はアップだな」

とか。

人の体に次々と服を当ててみては、
ぶつぶつ失礼な事も言ってのける明日は
自身が着ている服のセンスも良いが、
女物に関してもハイセンスらしい。

どの服も、可愛いものばかりだった。

『気が向いた。お前の服、買ってやる』

そう言って突如、
明日が店に入って行って小一時間。

女の買い物に男はうんざりする。

なんて言われる世の中だが、
今私たちは、まさにその逆だった。


「もういいよ!明日の選ぶの、
ほんと全部可愛いよ!文句なしだよ!」

「折角俺が買ってやるんだ。
どうせなら最高の買ってやらなくちゃな」

「…だいたい、今日は明日の誕生日なのに
逆に自分が買い与えるって
一体、どういう心境からくるの!」

「あ、それもそうだなって、これどうだ?
ライトグリーンもイカすな!」

「もういいよ!心ゆくまで選んで下さい」


この調子じゃあ、
今日が誕生日だってことも嘘か本当か
わかったもんじゃない。


「まあ、そう怒るなって。肌荒れるぞ」

「荒れたら明日の所為だ」

「うっせー貧乳。ほら、この服着て
宮野さんとのデート行きゃ完璧だろ」


(先輩と…、デート…)


「ちゃんと選ぶ気になったか?」

「いや、誘ってもないのに…」

「近々誘えばいいだろ?つべこべ
言わずにさっさ試着してこい」

「な、そんな無理やり…!」

「は?一人じゃ着替えられないから
一緒に中に入って手伝ってほしい?
しょうがねえなあ…」

「いやいやいや!幻聴ですから!
着替えられますから!」

「そうならそうと最初から言いやがれ」


二着の服を乱暴に手渡されて、
カーテンをシャッと閉じられる。

ただでさえ視線の集まる明日が
こんな目立つ行動をすれば、
いつにも増して視線は集中した。

そしてそれは、連れである私が
品定めされることでもある。

気が気でないけれど、明日といるのは
それ以上に楽しかった。
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