君の温もりを知る
「か、かわいい…」
改めて、鏡を見直す。
クリーム色から黒色へのグラデーションが
印象的なモヘアニット。
それに合わせた先程のライトグリーンの
短めのフレアスカート。
学校用の黒靴下なのが少々残念だが、
あれだけ時間をかけて選んだだけの
ことはあって、まるで別人に見えた。
「おら、おせえよ。早く開けろよ」
「ま、待ってよ!今開けるから!」
こんな棘のある言葉を放つ男が
選んだなんて、絶対思えないよな。
そう思いながら、ゆっくりと試着室の
カーテンを開けた。
「……な、何か言ってよ」
(さすがに無言はひどくない?!)
そりゃ、明日がいつも言うように貧乳だし
童顔だし、欠点は多々ありますが。
さっき自分見違えたな、とか
思ったことも土下座して謝りますが。
さすがに無言はないです明日くん。
「ねえ、」
「…いや、まさかこれほどまでに
自分の才能が素晴らしかったとは…」
「………は?」
意味がわからないんですけど。
「この貧乳という弱点を補って
むしろプラスにしてしまう才能…
まさに、神技ってやつだろ?これが」
短めの前髪を右手でかきあげ、
自分に酔いしれる男、瀬川明日。
普段からナルシスト全開ではあるが、
この日はそれ以上だった。
それが許されるのが、また憎い。
「俺、最高」
「私はどう受け取ればいいんですかね」
「褒め言葉として受け取れば
いいんじゃないんですかね」
何とも納得しがたいが、
明日が真面目に他人を褒めた日には
天変地異でも起こりそうなので、
やっぱりこれが正解なんだと思う。
(でも、ちょっとだけでも…)
かわいいとか言って欲しいのが、
女心なんですよ、わかってくれますか。
「お前制服のまま俺を尾行したから
このまま着て帰ってもいいと思ったけど、
やっぱローファーには合わねえな」
「やっぱり、わかってくれないのね!」
「あ?なんのことだよ、」
「いいですいいです!所詮明日だし!
あと尾行してないからね!」
は?意味わかんねえよ!所詮って何だよ!
そう騒ぐ明日はカーテンで
シャットアウトして、制服に着替え直す。