君の温もりを知る
ひたすらに、無言だった。
居心地が良いわけもなく、
ただただ、苦痛でならなかった。
駅から出て、その前の道を行く。
手を掴む力が強すぎて、
痛くて痛くて、心も痛くて。
「ねえ痛い、明日…!」
「………」
「なんで怒ってるの…?」
「………」
ずっと余裕そうに見える明日も、
一緒にいる時間が増えるにつれて
ほんの少しの感情なら
だんだんわかるようになった。
そして今、明日はどう見ても怒っている。
ちょっと離れただけなのに。
"怖かったな、もう大丈夫"って慰めて
なんて我儘も言わないのに。
明日が気にすることじゃ、ないのに。
「……前に、男には注意しろって
俺、言ったろ?」
「………そうだね、」
「じゃあなんで俺から離れた?」
「声真似するし、うるさいから」
「あ?恩人にそんなこと思ってたわけか」
「…女の子に話しかけられて
楽しそうにしてたくせに」
「そりゃ巨乳だったしよ」
「ほら、私から目を離した明日が悪い!」
「うっせーな。今後助けてやんねえぞ?
それに、しょうがねえから
あと一駅分歩いて帰るからな」
口を聞いてもくれないくらい
怒ってるかと思って勇気を出せば、
以外と普通に話してくれて、だけど
やっぱりこっちは向いてくれなくて。
そんな未だに痕が付きそうなくらいに
強く手を掴んだ彼が、急に立ち止まった。
「…どうかした?」
「馬鹿、信号が見えねえのか」
そう指差す先は、赤信号。
気付けば横断歩道の前で、少し待てば
信号は青に変わり、程なくして
あのお馴染みの『通りゃんせ』が流れる。
歩くのは始めての道だったから、
ここで流れるのは当然始めて聞いたが
別にどうとは思わずに、進んだ。
(……あれ?)
「明日、手……」
震えてない?
「あ?別にどうともねえよ…」
君はいつか話してくれました。
俺には弟妹達がいて、その子達の手を
ひいて歩くのがくせで、
だから私にもやってしまう、と。
それ故か、こうして歩く時は
人通りの多い方を、道路側を自分が歩いて
迷子にならないようにと、しっかり握る。
私には兄弟はいないから、
正直、羨ましくもあった。
何より、今日はたまたま荒すぎたけど、
いつもは優しいこの手が、大好きだった。
「別にって…!」
その手が、確かに震えていた。
歩みも、足が長いくせに
いつも私に合わせて歩く時より絶対遅い。
信号が再び赤に変わるギリギリに、
私達は横断歩道を渡りきった。
「ねえ、明日?大丈夫じゃないよね?」
そう、尋ねたときだった。