君の温もりを知る
トン、トンーー。
たった今横断歩道を渡りきった
私達のすぐ横を、ボールが転がっていく。
続いてそれを追っかけた小さな男の子が
ペタペタと走って行く。
赤信号に、変わったばかりのそこへ。
「ちょっと、君…!」
そう振り返った時にはもう遅く、
シルバーのワゴン車のすぐ目の前に
ボールを手にした弟がいて…
(もう、だめだ…!)
そう思って、思わず目をつぶってしまった
その一瞬に、それは起きた。
ーードン
地面に何かが叩きつけられる音がした。
言わずもがな、それは…
目を開けるのが、怖い。怖いけど、
ゆっくりゆっくり、目を開ける。
けどそこには、普段通りに
車が通る道路しか目につかなくて、
そうこうしているうちに、
また信号が青になり、音楽がなりだす。
車通りが少なくなり、視界が開ける。
そうして、向こうの歩道に
人が倒れているのが見えた。
そこでようやく、横に明日がいないのに
気づいて、全てを理解した。
「ーー明日!」
横断歩道を走って渡り、そこに倒れた
明日と、その腕の中に抱えられた
男の子に近寄って、座り込む。
「明日、明日…!聞こえる?
痛いところない?」
意識はあるらしく、すぐに起き上がって
泣き出してしまった男の子に
かまう余裕はなくて、ひたすらに
明日の体を揺すった。
「あ、ああ…うっせーなあ…貧にゅ…」
それだけ言って、明日は
また、目を閉じてしまった。
「ねえ、ちょっと!ねえ!明日…!」
[第三章]
(周りの人が親切に呼んでくれたおかげで
すぐに来た救急車に、私も乗り込む)