君の温もりを知る

それは私には、あまりに現実離れで
大人にしか許されないもの。

そんな、認識だった。

でも、先輩も平然としているし、
やっぱり、先輩が言うように私が
『お子様』なだけなんだろうか。

視界が塞がれた今、
聴覚のみが状況を知らせてくれた。


「…ん、なんで……?」

「周りに聞こえるし…てかもう、
今日は終わり」

「だから、なんで?」

「思わぬお客様がいるわけ。それとも何?
面倒事に巻き込まれてえ?」

「え、や、…そんなわけじゃ…」

「じゃあほら、さっさ行って?」


男の方が、お客様の存在を察したことで
事を中断し、女はどこかへ行ったようだ。

こんな状況でお客様、つまり邪魔者なんて
そうそう現れないだろう。

先輩も焦ったのか、わたしの目を
覆っていた手が静かに外れた。

無論、邪魔者というのは


「なに邪魔してくれちゃってんの?」


私達しか、考えられないわけ…


「お前こそ、俺の…
俺の若菜と何しちゃってんの!」


ザッと音を立てて私達とは反対側の
木の影から現れたガタイのいい男。

その姿に、頭に葉っぱついてるし、
なんて飄々と笑いながら
彼はゆっくりと立ち上がった。


「尾行なんかする男だから、
そうなるんだよ」

「くそ、瀬川明日!」

「は?何だよ?図星だろうが」


(よ、よかった…!私達じゃないみたい)

光に照らされて、一層色素が薄く見える
短めの茶髪、綺麗な作りの顔、
均等のとれた鍛えられた身体。

宮野先輩が、文化系の美形なら、
彼は確実に体育系の美形。
比べるみたいだが、素直にそう思えた。

そして木の影から現れた男も、
他の二人に爽やかさで絶対的に劣るものの
いかにもスポーツマンな雰囲気を
漂わせていた。

ほっとしたのか、先輩が呟く。


「またやってるよ…」
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