君の温もりを知る
たった一つの触れる方法
【side*Mashiro Yoshihara】
髪型もばっちりきめた。
服も、センスはピカイチな明日が
選んでくれたものだから大丈夫。
ハンカチも持った。
少しでも女子力をと、普段持たない
絆創膏までカバンに忍ばせた。
「よし、」
頬をペチンと叩いて気合いもいれる。
(大丈夫、きっと上手くいく!)
そう自分に言い聞かせて、
私は家の玄関を出た。
「いってらっしゃい」
「はーい、いってきまーす」
リビングまで聞こえるように大きな声で
返事をして、目の前に視線を移すと。
「お、奇遇だな」
奇遇だなんて到底思えない登場の仕方の
明日が視界に入る。
朝の日差しを浴びて、
我が家の塀にいい感じに寄りかかる彼は
ゆっくりと私の方へと歩いてきたかと
思えば、おもむろに私の手を取り
なにやら手のひらに文字を書き出す。
「あ、明日…?なにやって…」
「ん?なにって…瀬川家のおまじない」
「おまじない…?」
「そう、おまじない。お前、
どうせ緊張してんだろうなって思って」
そりゃ、するに決まってますよ。
現実離れしすぎて夢に見ることさえ
なかった先輩とのお出かけだ。
緊張しないわけがない。
最近はろくに食べ物も喉を通らなくて
よく眠れなくて。私にとっては
重大事件なんだ。今日という日は。
それもこれも、悔しいかなこの目の前で
未だにひたすら真剣におまじないを続ける
この男のおかげだ。
私一人だったらきっと何もできなかった。
「…ありがとう。明日」
「あ?なんだよ急に。つか動くな」
書きにくいから。
そう言って腕を握る手に力を込めた明日は
「よし、おしまい」と、その儀式を
終えるまで黙ったままだった。
「じゃ、俺にできるのはここまでだ。
あとは、お前次第ってやつ」
「うん」
「大丈夫、お前貧乳だけど、顔も
スタイルもそこらの女よりいいんだから」
「すっごい棒読みでありがとう」
「は?今の感情込めまくったんだけど。
…まあいいや、行ってこい」
トン、とこの時始めて優しく背中を
押してくれた明日は、私が振り返ることを
決して許さないようだった。
12月23日、コンサートの都合上
クリスマスから少しずれたが、
今日は大事な、宮野さんとお出かけの日。