君の温もりを知る
「はい、吉原の分」
「ありがとうございます」
「いいえ。それより、結構日が強いけど
大丈夫か?気分悪くねえ?」
「全然大丈夫ですよ」
「でも走らせちまったしよ」
「後半はほぼ先輩が私を抱えて走ってた
じゃないですか。先輩の方が…」
「おいおい、文化系だからって
別に体育苦手ってわけでもねえんだぞ。
それ以上に音楽が好きってだけで」
「はは、知ってますよ」
かなり急いだだけあって、開場五分前に
ついてしまって、
私を日陰に腰掛けさせた先輩は
ソフトクリームを買って来てくれた。
真冬なのにわりと暖かいし、
走った後だから寧ろ暑かったので嬉しい。
お昼ごはんに続いてこれまで
奢ってくれようとしてくれた先輩だったが
さすがに申し訳なさ過ぎるので
無理を言ってやめてもらった。
本当、男気溢れて余りある。
綺麗に渦巻いた柔らかいそれを一口。
イチゴ味で、ほどよく甘くて美味しい。
「吉原、こっち」
「…せんぱ……?!」
(え、え……?!嘘?!)
いつの間にか横に座っていた先輩に
呼ばれてそちらを向けば、
すぐ近くに先輩の顔があって。
そのまま先輩は私の頬を一舐め。
動けない私からゆっくりと距離をとった
先輩は、いたずらっぽく笑った。
「ごめん。美味しそうだったから、つい」
「じゃあ…!」
「ん?吉原が手に持ってる方食べれば
よかったんじゃないかって?」
「よ、よくわかりましたね…!」
「だって吉原、すげえわかりやすいもん。
それにさ、吉原の顔についたやつが
美味しそうに見えたんだからさ、
しょうがないじゃん?そんな嫌だった?」
「嫌じゃ、ないですけど…」
吃驚して心臓が飛び出そうだったんです。
「先輩、軽々しく女の子にそんなこと
してたら、いつか刺されますよ?」
せめてもの仕返しにとそう言えば、
何を思ったか、
先輩は目を見開いて固まった。
「……先輩?」
(まさか、言っちゃだめなやつだった?)
「ごめんなさ、」
「吉原、まだ気付いてねえの?」
「…え?」
「俺、結構あからさまなんだけど。
まさか、わざと気付いてないふり?」
「だから、何…」
「好きでもない女と、
こんなデートまがいなことしようと
思わねえよ、普通」
先輩はぐいっと私の腰を引き寄せた。
「ひゃ…!せ、先輩…?!」
「アンサンブル聞きたいの本当だけど、
それ以上に吉原と二人っきりに
なりたかったんだよ、俺」
「嘘、ですよね?先輩」
そんなの、冗談に決まってますよね?
「嘘なわけあるかよ。最近お前、
あの瀬川とやたら仲良いみたいだし。
ますます可愛くなるし。
俺、焦ってんだよ。わかるか?」
「え、あの…!」
先輩、熱でもあるんですか?
そう尋ねたとき、一瞬大きく目を見開いて
けれどすぐにため息をついて、
近かった距離をもとの距離まで戻して、
あくまでいつもの調子で、言った。
「だよな、昔からそんな奴だよな、お前」
(え、昔って……?)
「なら、直球で言う」
手に持ったままの食べかけの
ソフトクリームが、
冬の気温にさえ耐えかねて、
溶けて私の手を伝い、地面に落ちた。
「吉原、俺はお前が…」
そう、言いかけたとき。
「たいちいいいいいいいいい!」
そんな声が、全てを遮った。