君の温もりを知る
この声は確かに、さっきまでそこにいた…
「瀬川…あけび……、何で…?」
「何でここにいるかって?
そりゃ、あんな早く逃げれるわけねえし。
そこの草陰に上手く隠れてただけだ」
伊達に経験値積んでねえよ。
そうニヒルに笑う彼に、冷や汗が伝った。
「ごめ、ごめんなさ…」
「は?何が?」
「や、だから…覗き見のこと…」
「慣れてるし、そんくらい」
先輩はもう上の階へ行ってしまったから、
助けてくれる人は誰も、いない。
自分でなんとかしなくては。
「だから、あいつのことが好きなのか
聞いてんの」
「え、あ、はい…」
「別に取って食うわけじゃねえんだから
とりあえず落ち着け」
ひいひいふうって背中をさすられたが、
これで落ち着けるなら
もし人質に取られたときも
冷静でいられるに決まってる。
「聞きたいことがあるなら
なんでも答えてやるよ。ほら言ってみ?」
「こっちに気付いてたんですか?」
「そりゃもう。はい、次」
「…なんで先輩が好きなの
その一瞬でバレちゃったんですかね?」
「そんなの、お前の表情見りゃ一発で
わかるわ。気付かないのは
思われてる本人くらいじゃねえの?」
「じゃあ、そんなの私に確かめて
何がしたいのかってのは…?」
ああ、それ?
これまでの質問には即答だった男が、
一呼吸置いて、答えた。
「そりゃ、まあ…お前の恋の
手助けをするためだよ」
あっけらかんと、瀬川は答えた。