君の温もりを知る
恐る恐る目を開ける。
そうしすぐに視界に映るのは、
地にノビる大の男と、それを見て
わたわたするその仲間。
そして何より目を引くのが、
ただ一人堂々とたたずむ高坂くん。
と、その下に落ちたウィッグ。
先ほど少しだけ見て以来の
紫がかった黒の真ん中分けの短髪と
女の子なままの服はアンバランスで。
けれどその姿は整ったルックスも
あいまってか、ただ一言かっこいい。
「すまんな。吉原さんに危険な目
あわせる気はなかったんやけど」
「こ、高坂くん…?」
「お、おお覚えてろよぉ…!」
そんなお決まりの捨て台詞を置き土産に
ノビた仲間を抱えた
もう一人がとっとこ逃げて行く。
そんなこと気にもせず、
高坂くんはウィッグを拾って言った。
「…太一、タイミング悪かったな。
せっかく吉原さんに格好ええとこ
見せるチャンスやったんに…。
あ、そもそも太一みたいなむっさい男
おったらナンパなんてされんか」
「うっせえな、岳生。お前は派手に
やりすぎなんだよ。相変わらず」
ニヤリと高坂くんが笑いかけた先には、
チョコ味のソフトクリームを手にした
宮野先輩がいた。
そのまま受け取ったソフトクリームを
豪快に一舐めして、高坂くんが
自身の胸をトン、と叩いた。
「ほら、こんなにギャラリーさんも
いることやし?みんなが求めてるなら
やらなきゃあかんやろ、派手に」
そう顎で指すのは、私たちの周り。
つられて見渡せば、ここを中心に
人集りができていて。
「いいぞ!よくやってくれた!」
「あの不良たち私たちも迷惑してたの!」
「冬にソフトクリームは見てて寒いよ!」
「オカマの兄ちゃんもいいぞ!」
「誰がオカマやねん!ああ?
今それ言った奴、表出てもらおか!」
高坂くんがそう言い返す中でも、
周りの人たちは皆で拍手してくれて。
まるで難曲を吹き終えたみたいな
感覚に、私の鼓動は高まった。
無論、高坂くんが全てやったことで
私は何もできなかったんだけど。
「………せや!」
あっという間に真冬のソフトクリームを
食べ終えていた高坂くんが
何かを思い出したかのように声をあげた。
「コンサート、始まってまう!」
広場に立つ時計塔を見る。
時刻は、3:26を指していた。やばい。
「吉原!行くぞ!」
すぐに先輩が私の手をとる。
「すいません!どいて下さい!」
「あ!ちょお待て太一!俺だけ
置いてくつもりやろ!バレバレやで!」
人混みをかき分けて、私達は走った。