君の温もりを知る

外に出ると、もう日も暮れていて、
ソフトクリームさえ食べれた昼間とは
打って変わった真冬の夜の寒さが、
私たちの息を白くした。


「寒いだろ、吉原?俺の上着貸すよ」


「いや、大丈夫ですよ」


「太一、俺は寒い……」


「お前に聞いてねえよ!」


そんな二人のやりとりにも慣れてきた頃。


「待ってたよ、ガキども…」


暗闇から、人影が現れた。
すぐに宮野先輩が、私を庇うように
前に立った。


「あんた、昼間の……?!」


街灯に照らされたその顔は、
昼間私と高坂くんに絡んできた、
あの男のもので。


「覚えてろって言っといただろ?
善は急げ。さっそく、仕返しに来たよ」


「懲りんやっちゃな…」


「は!その台詞…」


戦闘態勢に入った高坂くんを
鼻で笑った男は指をパチンと鳴らした。


「これを見ても、言えるかな…?」


すると、その後ろからぞろぞろと
柄の悪い男達がざっと二十人ほど
街灯の下に現れた。

ニヤニヤと笑った彼らは、
高坂くんを見てこそこそ話し出す。


「あれが、『真島』の奴か……」


「ふざけた格好しやがる」


「ていうか、可愛いじゃねえか」


「おいお前ら、相手はただの『真島』
じゃない。そのなかでも『狂犬』の
一人だ。舐めてかかると、やられるぞ」


真島?狂犬?

意味のわからない言葉が、
男達の話から耳に入る。


「お前は、気にしなくていいよ」


そんな私に気付いたのか、
先輩は肩ごしに私に小声で言った。

先輩のいつもの声に、少し安心
したものの、やっぱり高坂くんと
男達のやりとりは未だ続く。


「へえ…兄さん、よお知ってますね」


「そりゃ前にコテンパンにやられたしな。
けど、今日は一人みたいじゃねえか?」


「あれ、前に会ったことあります?」


「…おぼえてないってか。
つくづく気に入らねえやつらだな!」


ぶっつぶしてやる!

男のその言葉から、戦闘が始まった。

昼間にも高坂くんの抜群の
運動神経は見ていたけど、そのときは
全然本気をだしていなかったのか、
昼間とは段違いの動きだ。

素人目にも、はっきりとわかった。


「あれれ、俺一人でラッキーみたいなこと
言うてはりましたよね?
ひゃはは!みっちゃん達おっても、
俺一人で始末してやるっちゅーの!」


「くそ、…くそがぁ…!」


みるみるうちに、大の男達が地面に
伏せて行く。

昼間よりも緊迫感のある
この場に、先輩も興奮したのか、
高坂くん一人で全く問題がなさそうな
そこに、入り込んで行ってしまった。

そのまま圧倒的強さの二人を見ていた
私だったが、あまりに呆気にとられ過ぎて
背後を全く気にかけていなかった。

それが、悪かった。


「かわい子ちゃん、みーっけ」


一瞬後ろ手を掴まれ、
身動きがとれなくされた。

背後の男は顔を見なくてもわかるほどに
ニヤリと笑った。


「ダメだなあ…こんな可愛い子を
放っておいて、自分達だけ
楽しく喧嘩なんて。君もそう思うよね?」


そしてすぐに、勝ち誇ったように
声を張り上げた。


「ねえ、狂犬と、その連れの人!
この女に手を出されたくなきゃ、
その場で止まって動かないでくれる?」


その声にようやっと私が
捕まったことに気づいた彼らは、
悔しそうに顔を歪めて、
その場に止まった。

特に宮野先輩は、何とも言えない表情で。

足手まといでごめんなさい。

小さく呟いた言葉は男達の言葉によって
かき消された。


「おとなしくついて来てもらうぞ」



その言葉に、逆らえるはずもなかった。



[第五章]

(不気味な暗闇のなかを
男達の後に続いたーーーー)
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