君の温もりを知る
「私、足手まといで…!」
「別にいいよ」
「、え…?」
「悪いのは、お前を置いて一人で
楽しんでた俺だ。岳生一人でも
あいつらを十分負かせたのに……」
「でも先輩、本当に楽しそうで…
私まで嬉しくなりましたから」
あの戦いっぷりを見たら、先輩が
いち吹奏楽部員だなんて信じられない。
それくらい、生き生きしてたんだ。
「もともと体動かすのは好きだったし、
岳生の友達にその道のプロがいてさ」
「高坂くんの?」
「そ。あの不良達が真島真島って
言ってたのは、そいつの家の武術の
流派だからなんだ。昼間岳生が
その奥義やってたろ?あいつ経由で
俺もいろいろ教えられたことがあって」
「へえ…じゃあ、」
狂犬って、何なんですか?
思わず、一番疑問に思ってたことを
聞いてしまった。
「ああ、それな…」
あいつと、あいつの友達の、通り名だ。
何故だかとてもとても言いにくそうに
先輩が言った。
私と先輩の間に、沈黙が流れる。
部屋に一つだけある小窓から、
月明かりが差し込んで、私達を照らす。
昼間とは打って変わった大人の
色気漂う先輩を盗み見た。
するとぴしゃりと目が合って、
先輩は少し笑った。
「大丈夫、」
「…は、はい?」
「お前、信じてないな?岳生が起きたら
二人でドアをどうにかして
ぶち破るから。安心してくれよ」
先輩は私の頭を優しく撫でた。
「私、あんまり不安じゃなかったです」
「え、?」
「先輩がきっとなんとかしてくれるって
信じてましたし、あとは…」
「あとは?」
可愛らしく先輩が首をかしげた。
「秘密です」
初めは不思議そうにした彼だったが
すぐに私にいう気がないことを悟り、
「ちょっと、昔話をしようか」
視線を移して、先輩は話し始めた。