君の温もりを知る
【side*Taichi Miyano】
あれは、俺が六歳の幼稚園児だった頃。
「もーういいーかーい?」
「もーういいーよー!」
すぐに探し始めた鬼たっちゃんに、
俺は思わず鼻を鳴らして笑った。
絶対に見つからない自信があるからだ。
案の定他の皆がたっちゃんに
見つかるまで、俺はこの小さな隙間に
収まったままだった。
「(へへ、絶対に見つかんねえし)」
「ーーさん、」
「(あっち探しても無駄だっての…!)」
「太一さん!」
「うわああああああああ!」
俺の真横には、いつの間にか
人が立っていた。なんてこった。
家の使用人の、田中さんだ。
俺は思わず尻餅をついてしまった。
「田中さん、なんで…」
「ああああ!太一みっけー!」
俺の叫び声を聞いたたっちゃんが
すかさず俺を指差した。
「たっちゃん!今のは田中さんが!」
「関係あるかよー」
「くそ…おい!あんたの所為だぞ!」
「すいません。でも太一さん、
もうすぐピアノのレッスンが…」
田中さんが淡々と言った。
「やだよ。俺はまだ遊ぶんだ」
「そういわずに…」
「俺、ピアノきらいなんだよ…」
トランペットの方が、ずっと好きだ。
「太一さん、それでは私がお父様に
叱られます。怖いんですからね」
「俺が一番知ってるよ!…ああもう、
しょうがないから行ってやる!」
「ありがとうございます」
「えええ、太一帰っちゃうの?」
「ああごめんな、たっちゃん。
皆も、また遊んでくれな」
「うん、ばいばーい」
皆に別れを告げて、
前を進む田中さんの後に続いて歩く。
田中さんは俺にピアノの道具を
渡すなり、また黙り込んでしまった。
元々口数の少ない人ではあるが、
俺の前でつまらなそうにされるのは
癪なので、俺から声をかける。
「なあ、田中さん…」
「なんですか?」
「何で俺の隠れてる場所、わかったの?」
他の誰も見つけられなかったのに。
「いえ、別に…」
少しだけ考えて、田中さんは言った。
「太一さんの考えること
ちょっと、わかりますから」
「は?何だよそれ…」
「はい、到着です」
そう顎で指すのは、ピアノ教室の
あるビルだった。
詳しくは聞かせまいと、
田中さんは俺の背中を押した。
「いってらっしゃい、」
それと、いつもと違う一言を添えて。
「今日から私の姪っ子もレッスンに
参加するんです」
人見知りな子なので、
仲良くしてあげてくださいね。
いつもはバレバレな愛想笑いな
田中さんが、この時はとてもとても
嬉しそうに笑ったんだ。
「うん、わかったよ」
俺も思わず、つられて笑ってしまった。