君の温もりを知る

「そこ、指違うよ」


「はい」


指摘されたことを踏まえて、
もう一度前の小節から引き直す。


「ほら、そこも」


「……はい」


今度は別のところ。
これだからピアノは嫌なんだ。

こんな苛々した状態では
上手く弾けるわけもなくて、
またひっかかってしまったとき。


「こんにちは、」


「…こ、こんにちは……」


「はい、太一くん紹介するね!」


入り口のそばに目を向けると
もう一人先生と、俺より小さい女の子。


「はい、真白ちゃん、自己紹介して!」


「は、はい…!よしはら…ましろです」


ああ、もしかしてこいつが田中さんの。


「じゃあ太一くん、真白ちゃんは隣の…」


「ねえ、君が田中さんの姪っ子?」


思わず先生の言葉を遮って質問すると、
吉原真白は緊張からか
挙動不審だったのがピタリと止まった。


「さ、沙月ちゃんを知ってるの?」


「沙月ちゃん?」


「田中沙月ちゃん、」


「ああ、田中さんね。家の使用…」


「あなたが太一さん…!」


一瞬で距離をぐっと縮めて来た
吉原真白に、今度は俺があたふたする。


「な、…?!」


「あのね、沙月ちゃんがね、
太一さんは優しいからきっと真白とも
仲良くしてくれるって教えてくれたの」


「は、はあ…」


「ね?」


真白と、仲良くしてくれる?

あざといとはこのことを言うんだろう。
そう、幼い俺が悟るほど、
首をかしげた真白はただ一言、可愛い。

俺は当然断れるはずもなく、


「わ、わかったよ」


仲良くしてやる。

そんな恥ずかしすぎる言葉に俺は、
だんだん声を小さくして言うと、


「ほ、本当に…?」


「だから、そう言ってんだろ?」


「、嬉しいなあ…」


へにゃりと効果音が付きそうなほどに
柔らかく微笑んだ吉原真白。

そんな俺らを見かねて、先生が一言。


「よかったね、真白ちゃん。
じゃあ、隣の部屋で練習始めようか」


「はい!」


部屋を出て行く二人に、ため息を一つ。


「変な奴…」


「じゃ、太一くん、私達も始めようか」


再開したピアノで、ピタリと調子が
よくなったのは、また別の話。

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