君の温もりを知る


レッスンが終わり、部屋を出ると
すぐに聞こえてきたピアノの音。

まあ、ピアノ教室なんだから当然か。

そう冷静に思っても、俺は何故だか
その音の元へと足を進ませた。


「あ、…」


磨りガラスから覗くそこから、
ピアノを弾く吉原真白の背中が見えた。

決して群を抜いて上手いわけじゃない。

コンクールにはもっと上手い奴らは
ゴロゴロいるし、
俺だって劣っているとは思わない。

けれど、俺は不思議と
彼女の奏でる音楽に耳を傾けた。

ただ伝わってくるのは、吉原真白が
心から音楽を楽しみ、愛していること。

俺の目からは思わず、涙が出た。
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