君の温もりを知る
第二章
冷たい手でもいいよ
鳴り響く拍手喝采。
誰かがひゅーひゅーなんて口笛を吹けば、
それにつられて声を出したり、
飛んだり、跳ねたり。
(ああ私、やっぱりこの瞬間が好きだな)
思わず頬が緩んだ。
各季節に一回ずつの、吹奏楽部の
校内公演は、大成功に終わった。
「吉原吉原ー!…あ、それ重いだろ?
半分俺が持つよ」
「いや、大丈夫ですよ。このくらい」
「そうか?てかさ、お前今日のソリ、
すげーうまかったじゃん!」
「わ、ほんとですか?!」
「ああ。俺が練習付き合った甲斐
あったじゃんよ」
「はい、ありがとうございます!
あ、でも先輩のソロも…」
「太一くん!おつかれー!
一人で吹いたとこかっこよかったー!」
譜面台やらを運びながら話していた私達を
遮ったのは、二年生や三年生のお姉様方の
小さな人だかりだった。
多少瀬川明日の所為で慣れてはいたものの
先輩のことでこうなるのは初めてだった。
三年生の先輩も引退して、堂々とソロを
吹けるようになって、
始めての校内公演だったから、
今まで注目されなかった分が
一気に回ってきたってことでしょうか。
(先輩の魅力は、
私だけが知ってればいいのに…)
なんて思ってしまう私は駄目な子です。
わかってますよ、そんなこと。
でもおかしいな。
先輩は今までもモテる方だったのに、
こんな気持ち今までなかった。
「真白、重いでしょ?貸しな」
「失礼な!持てますよ!」
「…負けちゃだめよ?」
「……なんでわかるんですか」
そんなに顔にでてますかね?
「恋をするとは、そういうことだからよ」
あっけらかんと言う桃ちゃん。
(大人ですね、ほんと。おばあちゃんか)
だがエール感謝です!なんて心中で敬礼。
なんてったって両手は塞がっているので。
「時に、真白さん」
「なんですか、桃さん」
ちらりと私よりも低身長の彼女の
顔を覗けば、いつも以上に
にやにやとされていた。どうした。
「最近、瀬川明日と仲いいのは何故?」
あ、そういうことですか。
「彼を知っているのですね…」
「今まで散々目の前で話をしても
全然聞いてなかったくせに」
「な、何のことだい?」
「…別に好きな人が急に変わったって
誰も咎めやしないわよ」
「その辺全く心配いらないので、はい」
音楽室についたので、
私は逃げるように楽器を直しに走った。