君の温もりを知る
「遅えよ。吹部の片付け」
「ごめんね。…公演、見てた?」
「吹部が貸し切ってくれたおかげで
体育館使う部活は全部休みだったし?
どうせ暇だったわけよ」
「…どうせ下手だったとか言うんでしょ」
「いや?俺、音楽のことわっかんねーけど
お前の音、好きなんだよな」
「あの中で私の音聞き分けられたの?」
「…それはさすがに無理だったけどさー。
いつも練習してるの聞いてて思うわけよ」
「…明日、」
思わずそう呼べば、少し前を歩いていた
彼が立ち止まり、
頭の後ろで手を組んだまま振り返った。
「ん?」
「…なんでもない」
なんだよ、なんて不貞腐れながらも、
再び歩き出した明日を横目に、考える。
あの衝撃的な出会いから、
三ヶ月ほど経っただろうか。
もうすぐ冬が訪れる、そんな季節。
私達の関係はというと、
明日が「俺、自分の名前好きだから、
お前も名前で呼べ」なんて言うから
名前で読んでるぐらいで
それ以外は特に、普通だ。
初め犯すだのなんだの言っていたから
怖かったけど、今では
根は優しいからと割り切って
多少の横暴は聞き流すスキルを得た。
無茶振りはたびたびあるものの、
思っていた以外に真面目に
相談に乗ってくれていた。
今日も、作戦会議だ!って言って
もう日の暮れた放課後、
こうして歩いているのである。
「貧乳、」
またまた急に止まる明日に
前を見ていなかった私は、背中に
ぶつかってしまった。
「…なに?」
「腹減った。ファミレス行くぞ」
「はいはい、」
ふうっと息を吐けば、ちょっとだけ
白くなって、もうマフラー出さなきゃ
なんて思って、
ふいに手に触れた温もりに、顔を上げる。
「なんだよ?嫌か?でも、俺が
寒いから離してやんねえ」
「さいってー。この横暴!」
でも寒さには敵わないので、
バスケでできたものかはわからないが
豆だらけの硬い手を、ぎゅっと握り返す。
昼間先輩との距離を
痛感してしまったからかなんなのか、
私の心は、ほんの少しだけ、揺れていた。