嘘つきなワタシと年下カレシ【完】
 化粧を落とし忘れた日の朝はたいてい前日の己の行動を恨む。

 でも今日は、落とし忘れてて良かったと思う。

 軽く化粧直しをして、私は厚手のコートに身をつつんだ。

 いつもより高めのヒールを履いて、コツコツと音をたてて歩く。

 オトナ女子風情を醸し出し、アパートから公園までの距離を颯爽と歩いた。

 

 現在、6時40分。

 ベランダから見慣れた光景が、間近に迫っている。

 白と黒のジャージに身を包んだ例のカレが、筋トレをしている。


 思わず口から「格好良い!!」と漏れ出そうになるのを堪えて、私は近づいてく。

 後ろから歩調を緩めずに突き進んでいく。


 あと2メートルという距離で、カレの動きがぴたりと止まった。

 ゆっくりと背中を起こすと、顔だけを私に向けた。


 端正な顔が私の姿をとらえている。

 近くで見るカレは、芸能人のようだ。身体から放つオーラが、勤め先の塾に同年代の若者よりも強い気がする。


 オトナ女子!!

 クールで落ちつき払った女を演じるのよ。

 私は顔をあげて、コートのポケットに手を入れると、足を止めた。


「なにか?」

 喉仏にかかる低くて太い声が、私の胸にぐさりと刺さった。

 声も格好良いって反則よ。

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