嘘つきなワタシと年下カレシ【完】
 私はカレに気づかれないように、咳払いをして跳ね上がりそうになった鼓動に釘をさした。

「これ、昨日落とさなかった?」

 私はポケットの中にいれておいた鍵を彼に差し出した。

「あ……」とカレの口が動き、「ありがとうございます」と礼儀正しく頭をさげた。

「あなたの?」

「はい。家の鍵です」

 カレが長くて綺麗な指で、鍵を摘まみあげた。

 ポケットにスッと鍵をしまうと、もう一度ペコっと頭が上下に動いた。

 私はカレに背を向けると、また颯爽と歩きだす。

 公園を出たところで、私は肩の力を抜いて、深呼吸をした。

 顔も格好良くて、身長もあって……スタイルも良くて、声も良いなんて。反則だ。

 指先も綺麗だった。

 私はすこしだけ手のひらに触れたカレの指先の体温を思い出す。

 ずるい……この世の中のどこかに、カレの指で愛される女子がいるなんて。

 私も、いつかはこの世の中のどこかにいる男性に愛されたい。

 できれば30歳になる前に出会いたいものだ。

 私はコートの襟をたてると、ぶるっと身震いをしてアパートへと戻った。

 どうか、神様。

 30歳前に恋人ができますように。

 心の中で呟きながら、小走りで階段をあがった。

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