嘘つきなワタシと年下カレシ【完】
「最近のまりなは綺麗だ。家に帰るのが億劫になるよ」
ベッドの中で熱い息を私の耳に拭きかけながら、相田 諒が囁く。
嘘つき。
私は心の中でそう呟く。
帰りたくないなら、泊まっていってよ。
私を綺麗だと言うのなら、私を一番にしてよ!!
言いたくても言えないフレーズが喉の奥に引っかかったまま、私の呼吸を苦しくする。
「あ、もうこんな時間か」
諒が腕時計を見てそそくさとベッドから出ていく。
軽く持ちあがった羽毛布団の隙間から寒々しい空気が素肌を撫でた。
皺にならないように、椅子の背にかけてあったスーツに諒が手をかける。
1分もなかった、着替えるのに。
着替えの最中に口からこぼれ出す言葉は、私の元を去るのを拒むフレーズばかり。
でも彼のしぐさから滲み出てくる言葉は、「早く帰りたい。妻のもとへ」。
矛盾してる。
わかってる。不倫とはそういうもの。
男が帰る場所は……愛人じゃない。妻がいる家だ。
わかっている。
けど、期待しちゃうでしょ。
愛人にだって。彼の帰る場所が私の元になって欲しい、と。