嘘つきなワタシと年下カレシ【完】
 相田先生が自習に足を踏み入れて、俺の前の席に腰を落とした。

「佐々くらいの年だと、年上の女性って魅力的に見えるよなあ」

「それ、どういう意味ですか?」

 俺は目を細めると、相田先生の表情をうかがった。

 遠まわしに聞くのは諦めたのか。

 変化球で俺が動揺しなかったから。直球ストレートで、アウトにしたい……と。

「そのままの意味だよ、佐々」

「年上だから魅力的に見えるという答えの導き方はおかしいですよ、相田先生。山村さんだから魅力的なんでしょ?」

 相田先生の眉がピクリと動いた。

「大人として子どもに恋愛のルールを教えている風を装って、『愛人を奪うな』という脅迫はフェアじゃない。すでに既婚している男が、他の女性に対して群がる男にライバル宣言するのもおかしい話だ。倫理観がすでに崩壊している男に、年齢差がどうのこうのと教示されるのは心外だ」

 相田先生の表情が一気に曇った。

「勘違いしているんじゃないか、佐々。愛人って何を言っているんだか。私は受験を控えている生徒たちが道を外さないように……」

「だからすでに道を逸脱している人間に言われたくないって話してるんだけど」

 相田先生が喉を鳴らした。

 まりなさんに気づかれずに、俺を暗殺しようとして、返り討ちにあったってところか。

 俺はフッと口を緩めると、シャーペンをくるりと指先でまわした。

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