嘘つきなワタシと年下カレシ【完】
 意識しすぎだ。

 コーヒーのボタンに手を伸ばしたら、佐々君に強く握られてしまうんじゃないかって……。

 強く握られてしまったら、私はきっと佐々君に正直な気持ちを話してしまいそうで怖い。

 佐々君に気持ちをもってかれてる……って伝えてしまいそう。

 佐々君は女性がどうやれば喜ぶかを知っている。

 それを順序良く私の前で披露している。乙女心にぐいぐいと入ってくる。

 私の心は、すっかり佐々君の作戦にハマってる。

 だから電話には出なかった。出たら、もっと深い欲求が顔を出してしまうのがわかっているから。

「相田先生と? 元鞘?」

 佐々君がいつも以上に低い声で呟いた。

「え!?」

 私は振り返ると、怖い顔をしている佐々君にびっくりして、すぐに背を向けた。

「勘違いしてるみたい、佐々君。相田先生は既婚者だし……」

「相田先生は認めたよ。まりなさんとの関係。宣戦布告もされたし。愛人に手をだすなってわざわざ言いに来た」

 佐々君がズボンのポケットから小銭入れを出して、自販機に投入する。

「何を言って……。大人をからかっちゃ駄目だってば」

 佐々君の指先が、私の飲みたいと思っていたコーヒーのボタンを押す。

 ガラガランと音をたてて、缶コーヒーが落ちてきた。

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