嘘つきなワタシと年下カレシ【完】
「お疲れ様です」と私は、授業を終えて事務所に戻ってきた相田先生に軽く頭を下げた。
相田先生はにっこりと笑うと、「御苦労さま」と優しく口を開いた。
私の目は自然と薬指に向く。
シルバーのシンプルなデザインの指輪が誇らしげに指にハマっている。
「相田先生、さきほど生徒さんが来てましたよ。質問があるみたいで、また来るって言ってました」
「あ……木村かな? そういえば昨日、わからない問題があるって話してたから。奥にいるから来たら呼んでくれる?」
「はい」と私は頷く。
相田先生が腰を曲げると、私の耳に口を近づけた。
「今夜も行くから」と囁いてきた。
私はポケットに手を入れて、指先にふれた公園の落としモノをぎゅっと握りしめる。
「あの……」
「ん?」と相田先生……諒が片眉をあげた。
「その件はさきほどキャンセルがありました」
「え?」と諒が驚きの表情になった。
他の先生や事務所にいる人たちの目がある。
できるだけ直接的な言葉は避けて話さなくちゃ。
「相田先生がお約束なさっていた件について……キャンセルの電話があったので」
『無理ってこと? 昨日はあんなに……』
私は咳払いをして諒の言葉を遮った。
終わりにしなきゃ。
こんな関係。
不倫なんて、もう……。
鍵を強く握りしめて、私は顔をあげた。
「昨日が最後……もう、お終い」
震える唇でそれだけ告げると、私は事務所の席を離れた。