唯一の涙

三番の白石先輩もファールで粘ったものの、最後は空振りで終わった。
序盤から三者凡退でベンチにいる誰もが、沈黙する。



チェンジして相手校の攻撃。



ーーキンっ‼



ーーキンっ‼‼



ーーキンっ‼‼‼‼



仁科先輩の球がいとも簡単に打ち返される。
ノーアウト満塁。



そして次にバッターボックスに入るのは、県でも一二を争うというバッティングセンスを誇る、四番打者。
勝負に出れば確実に当ててくるだろう。



かと言って敬遠しても相手に一点が入ってしまう。




仁科先輩は、名瀬先輩のサインに二度首を振った。
三度目で力強く頷く。



ーー仁科先輩、勝負する気だ。



そう思った時、仁科先輩の手からボールが放たれた。



四番は力みの欠片もない綺麗なフォームでスイングした。
この試合で、一番爽快な金属音が翔ぶ。



審判は打球の軌跡を見届けると、頭の上で手を回した。



満塁、ホームランだった。



相手チームに四点が入れられる。
私は、悔しさを紛らわすために、手元のスコアを握り締めた。






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