唯一の涙
試合は1-7でうちの完敗だった。
相手校のエラーがなければ、一点も入らなかっただろう。
去年はうちと然程力が変わらなかった相手校。
うちも合宿でかなり力が付いたと思っていたけど、それは相手校も同じなんだ。
うちが伸びた分だけ、いや、それ以上に、他校の実力は上がっていく。
高校野球の壁の高さを、改めて思い知った。
帰りのバスは、静かだった。
一人一人の息遣いが、バスの中を支配する。
「……ここまで、よく頑張った」
あの試合が終わって、ずっと黙ったままだった藤堂先生が、重い口を開いた。
全員が、先生の言葉に耳を澄ます。
溢れそうな気持ちを押し込めて、一人、また一人と顔を上げ始めた。
「この試合を以って、三年生は引退だな。今まで、こんな未熟な俺に……最後まで着いて来てくれて、ありがとう」
誰かが、鼻を啜った。
「お前達には感謝しても、しきれない。本当によく頑張ったな……お疲れさま」
段々と小さくなっていく先生の声。
震えてるのが、分かった。
先生もあんなこと言ってるけど悔しいんだ。
そう思ったら、今まで抑えていた気持ちが一斉に溢れ出してきた。
いろいろな所から、嗚咽が漏れ始める。
バスにいる誰もが、涙を流した。
ただ一人……。
ーー私を除いてーー。