唯一の涙
だけど、先輩に気迫負けするわけにはいかない。
知ってるんなら、知っておきたい。
本当なら水野先輩や石神先輩本人達に聞くのが正しいことだろうけど。
真っ向から先輩達に聞いても、答えてはくれないだろう。
二人とも、上手く私をはぐらかす。
先輩達に会ってまだ半年も経ってないけど、そうなる事は安易に予想できた。
「聞く必要が、私にないことは分かってます……私が聞いたところで、何になるとも思ってません」
冷酷な先輩の視線を、深く見据える。
握り締めた拳が汗ばんだ。
「ただの我が儘と言われれば、それまでですが……、それでも知りたいんです。引くわけにはいかないんです」
先輩との視線が絡み合う。私達は、黙ったままだった。
「……参ったな」
絡み合った視線が、プツンと切れたかと思うと、先輩は小さく呟いた。
諦めたかのように、頭を掻く。
「河原ちゃん……」
さっきまでの張り詰めた空気は何だったのか……。
そう思うぐらい、目の前にいる先輩は穏やかだった。
「俺は、二人が何を話してるか知ってる。そんでそれを河原ちゃんに話すんは、簡単なことなんや」
でもな……と先輩は肩を竦めて笑ってみせた。
「これは他でもない、二人の問題やから。部外者である俺が、どうこう言ってええ事じゃないねん」
先輩の手が私の頭を撫でた。
頭を撫でた手を下に滑らせて、軽く肩を叩かれる。
「河原ちゃんは二人を信じてあげぇ。……それが、今の河原ちゃんが出来る、あの二人への精一杯や」
白石先輩はそれだけ言うと、何処かへ行ってしまった。