唯一の涙

【ーー聞きたくない‼‼‼‼】



心の中で、私がそう叫んだ。



耳を塞いでしまいたいのに……私は、動けないでいた。
まるでこの身体が、自分のものじゃないみたいに。



「俺……県外に転校することになった」



転校……誰が……?
水野先輩じゃ……ない、よね……?



やだ……なんでこんなに身体が震えるんだろう……。
落ち着け、私。



泣くな……泣いちゃ駄目だ。



眼の奥が熱くなって、何かが込み上げてくる。
私は、必死にそれを堪えようと、俯いた。



「…いつ、ですか?」



「来年の春」



「……そう、ですか」



もう、一年もないんだ。



そりゃ水野先輩は今二年生なんだし、いつかは卒業して離れちゃうとは思ってたよ?
だけど、それはまだ先の事だって……こんなに早く、先輩と離れる日がくるなんて……。



「両親が離婚することになってさ……俺、父さんに着いて行くって決めたんだ。母さんには、妹と弟が居るし、何よりも父さんを一人にしたくない」



水野先輩は優しい……。優し過ぎる。
その優しさは、先輩の良いところだけど、今はすごく痛いよ、辛いよ。






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